「ハリー・ポッター」シリーズの翻訳者である松岡氏が、35億円申告漏れの指摘を受けたということです。
国税局は、「スイス移住後も、頻繁に来日して出版業務・営業活動を行い、3年間は日本での滞在日数がスイスを上回っていた」ことから、生活の本拠が日本にある「居住者」として「認定」した、ということです。 (引用開始) 世界的ベストセラー「ハリー・ポッター」シリーズの日本語訳で知られる翻訳家の松岡佑子さん(62)が同シリーズの翻訳料収入をめぐり、東京国税局から04年分までの3年間で35億円を超える申告漏れを指摘されたことが分かった。松岡さんはスイスに居住しているとして日本で申告していなかったが、実際には生活の本拠が日本にあり、申告が必要と認定されたとみられる。追徴税額は過少申告加算税を含め7億円を超える模様だ。 松岡さんは課税処分を不服として異議申し立てを行う一方、スイス居住者と認めてもらうため、日本とスイスの国税当局による相互協議を申し立てたとされる。 関係者によると、松岡さんは当時、「ハリー・ポッター」を邦訳し日本で出版する権利を持つ出版社「静山社」(東京都新宿区)の代表取締役を務める一方、同社から翻訳業務を請け負い、巨額の翻訳料を得ていた。 01年7月、スイス・ジュネーブ市にマンションを購入し、東京都新宿区に所有するマンションから住民票を移した。スイス居住者だとして翻訳料を日本で税務申告せず、静山社が翻訳料の20%の所得税を源泉徴収して国に納めていた。 税法上、日本に生活の本拠がある「居住者」だと、国内外の所得を日本で申告納税する義務がある。高額所得者の場合、住民税を合わせた税率は50%。一方、「非居住者」なら原則として日本で生じた所得の源泉徴収だけで済む。スイスで申告すれば、地方税を含む税率は40%弱とみられ、日本で納めた分も控除されるため、結果的に節税になる。 しかし、関係者によると、松岡さんはスイス移住後も頻繁に来日し、静山社代表として出版業務を取り仕切ったり、「ハリー・ポッター」の営業活動をしたりしていた。滞在中は新宿区のマンションに居住。04年までの3年間は日本での滞在日数がスイスを上回っていたとされる。 こうした事情から、国税局は、生活の本拠が日本にあり、松岡さんは「居住者」にあたると認定。源泉徴収で納めた所得税だけでは足りない分を追徴課税した模様だ。 (引用終了 アサヒ・コム2006年07月26日09時50分) 最近では、 (2006年7月) ・眼鏡専門チェーン最大手の「三城(みき)」の多根裕詞会長 ・2003年までの4年間で株の売却益など30数億円の申告漏れ指摘 ・自社株を社員に売って得た利益を、同時住んでいたスイスで申告 ・国税当局は国内滞在日数などから国内に居住実態がある、と認定 (2005年3月) ・消費者金融大手「武富士」前会長が、オランダ法人株を香港に移住した長男に贈与 ・1,600億円もの申告漏れ指摘 ・「海外居住者が海外財産の贈与を受けても課税されない」という当時の税法の規定に従って贈与税を納めなかった ・しかしながら上と同様に、「国内に居住実態」と判断 このように、資産家クラスの海外脱出に、国税局が「国内居住実態認定・非居住者否認」という裁量の大きな行政行為で、「待った」をかけていることがわかります。 その背景には、 ・昭和29年、最高裁判所の判例 ・2005年1月、香港を舞台にした同様のケースで国が裁判に勝利 があるようです。 --- さて、これまでの関連したエントリーで、次のように述べました。 (引用開始) 国には、徴税権と通貨発行権がありますが、その上位概念として、立法・行政・司法の三権があります。つまり、新たに法令を制定し、それを執行し、違反を裁判で裁くのです。 財産権の保障は、近代私法の原則です。しかし、それを踏みにじる行為が、たびたび起こります。「租税法律主義」は憲法に定められた原則ですが、その運用方法・実質内容については通達一本で好きなように変えられてしまうのが、現実です。つまり、課税という形式で、行政庁は国民の財産権を好きなように侵害してしまえるのです。 このような「通達一本でどんどん法律の運用が変わる国」で、財産を守ることは難しいのではないでしょうか。見方によっては、中国のような社会主義国よりカントリーリスクが高いと思われても仕方ないですね。 「租税法律主義」 --- 『・・・課税庁は納税者の知らないところで落とし穴を掘っておいて、ある日突然、善良なる納税者に対し、追徴課税のみならず、あまつさえ延滞税や過少申告加算税まで課そうとする。しかも、法的根拠なしにだ。その結果、保有株式の含み損に加えて、借金までして税金を払っている人がいる。 ・・・個々の課税庁職員の「裁量」によって税金が増えたり減ったりするようなことは、あってはならないのだ。まして、課税庁職員に徴税ノルマを課することがあってはならないのだ。』 ・・・そして、課税強化の流れを止めることが出来ない今後の日本において、課税庁が暴走するということが、既定路線となってしまったと考えています。 国と戦うと言うことは、一般市民にとって非常に恐ろしいことと思います。しかし、国民からカネを巻き上げないと今後の国家財政が立ち行かないと言うこともまた事実です。 「租税法律主義(ストックオプション判決) (2)」 (引用終了) 「非居住者(PT)?海外で贈与?自分には関係ないよ」と思われますか? それは違います。相続・贈与そのものは、どなたにとっても可能性のある話なのです。そして、投資をする上においても、税金との付き合い方は重要な知見となっているのです。さらに、今後の国家財政を考えると、「なりふりかまわず、取れるところから取るしかない」となる可能性があるのです。 一部で喧伝されている「財産税」についても、否定しきれるものではないでしょう。 もしあなたが「理不尽な課税処分」を受けたらどうしますか?皆様においては、「その時どうするのか」という点につきまして、十分に心構えをされますように、申し上げます。
by kanconsulting
| 2006-07-30 01:51
| 海外投資
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