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ジョセフ・スティグリッツと内橋克人の「グローバリズムと格差社会」 経済財政諮問会議と労働ビッグバン

経済財政諮問会議において、「正社員と非正規社員の格差是正のため、正社員の待遇を下げて、非正規社員の水準に合わせるべき」とする意見が出されているようです。

「正社員の待遇を下げる」ということは、「正社員の総額人件費を下げる」ということに他なりません。もちろん、ホワイトカラー・エグゼンプションも、この中の一つの項目に過ぎないのでしょう。

これは、八代氏だけの意向ではありません。経済財政諮問会議のような「御用学者チーム」においては、主宰者の意向に沿うメンバーを集め、それに反するメンバーを除外することは、皆様もよくご存知のはずです。そして、そこで出た結論を「議論が尽くされた上での、民間の総意」とすることも、よくあることです。簡単に言うと、「出来レース」と言うことになります。

(引用開始)

労働市場改革:正社員待遇を非正規社員水準へ 八代氏示す

経済財政諮問会議の民間メンバーの八代尚宏・国際基督教大教授は18日、内閣府の労働市場改革などに関するシンポジウムで、正社員と非正規社員の格差是正のため正社員の待遇を非正規社員の水準に合わせる方向での検討も必要との認識を示した。
八代氏は、低成長のうえ、国際競争にさらされた企業が総人件費を抑制している中、非正規社員の待遇を正社員に合わせるだけでは、「同一労働・同一賃金」の達成は困難と指摘。正規、非正規の待遇を双方からすり寄せることが必要との考えを示した。
また、八代氏は現在の格差問題が規制緩和の結果生じた、との見方を否定し「既得権を持っている大企業の労働者が、(下請け企業の労働者や非正規社員など)弱者をだしにしている面がかなりある」と述べた。
八代氏は、労働市場流動化のための制度改革「労働ビッグバン」を提唱しており、近く諮問会議の労働市場改革の専門調査会の会長に就任する予定。

毎日新聞 2006年12月18日

(引用終了)

(引用開始)

「小さな政府」止めよ--ノーベル賞受賞経済学者、ジョセフ・スティグリッツ氏

技術革新によって、高い技術を持った熟練労働者の需要が増えている。一方で非熟練労働者は途上国との賃下げ競争にもさらされ暮らしは苦しい。こうした格差拡大をもたらす状況が世界的にある中、政府が取るべき対策はセーフティーネットの整備や教育の充実、より多くの公共サービスを提供することだ。しかし、米国や日本の「小さな政府」政策は全く逆のことをしてきた。
規制には必要な分野もある。不適切な分野、間違ったスピードで規制を緩和してはならない。私が参加したクリントン政権の経済諮問委員会では、社会にとって最善の規制とは何かを考え、多くの規制を撤廃する一方で、新しい規制も加えた。米国民への影響や、生じる格差に大きな関心を抱いていた。しかし、米国が日本へ迫った規制緩和は、米国企業の成功のためであり、日本のためではなかった。
日本は、格差拡大の結果を認識し、格差に対処する政策を採用すべきだ。小さな政府というイデオロギーが良い経済政策を生まないことを認識する必要がある。日本経済全体からすれば、郵政民営化は小さな問題だ。はるかに重要な問題がたくさんある。
格差が経済成長につながらないことは、日本を含む東アジアの過去の成功が示している。格差が少なく、平等な教育が行われ、人的資本がたくみに使われたからだ。
私に言わせれば、米国経済は好調ではない。ただ一つ高い国内総生産(GDP)も悪い指標だ。たいていの人が貧しくなったとしても、GDPは上昇しうる。より重要な指標は人々の生活だ。一握りの富裕層がますます金持ちになり、中間層が貧しくなっていく米国の現実は、今後日本でも起こりかねない。
国民は「小さな政府」政策が、自分たちをより不安定にすることに気づき、その流れを止めるしかない。

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「共生経済」へかじを--経済評論家・内橋克人氏

バブル崩壊後の「長期構造的停滞」をもたらしたものは、狂乱的な土地投機や金融資本の節度喪失、もとをたどれば円高誘導を決めた85年のプラザ合意以降の日本政府の重大な「政策エラー」に真因があった。
ところが一部の論者は巧みに現実をスリ替え、あたかも公正や平等に価値を求める在来の価値観に不況や停滞の原因があったごとく唱え始めた。彼らは平然と「悪平等主義」とか「ぬるま湯につかる日本人」、ついには「日本型社会主義」なる珍語までひねり出し、長期停滞の責をもっぱら社会一般、とりわけ働く者に転嫁し、糾弾を始めた。
アメリカ帰りのある学者は「格差ある社会は活力ある社会」などといい、「金持ちにうんと金持ちになってもらうほか、日本が豊かになる選択肢はない」とまで公言している。その後、この人物が経済政策を担った。日本財界、超富裕層の長きにわたる宿願が、すべて見事に達せられた。ごく普通に生きる日本人の「不幸の始まり」だ。
社会をむしばむ「格差」を一気に深めたものは、小泉政権が完成させた雇用・労働の解体だ。この政権は「改革」の名において、経済界の悲願であった「雇用・労働の規制緩和」の流れを一気に加速させ、不可逆で決定的なものとした。03年改正における差別的派遣労働の全面解禁(期間の上限延長)、製造業への派遣労働の解禁断行などがその核心的なものだろう。まさにここに「格差問題」の起源は発している。
いま、私たちは「あるべき日本社会」の展望を打ち出さねばならない。時の権力に密着してグローバルスタンダードなる「幻想」をふりまき、「既得権」を糾弾しながら「新規権益」をほしいままにした不公正な「利得者」らをあぶり出すことだ。市場が市民社会を支配するのではなく、社会で暮らし、働く人々を守る新たな「共生経済」へ向けてかじを取るほかにない。

毎日新聞 2006年7月24日 東京朝刊

(引用終了)

関連した書籍もご覧ください。
「世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す/ジョセフ・E・スティグリッツ」
「悪夢のサイクル―ネオリベラリズム循環/内橋克人」
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