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山崎元が語る「売買を分割したくなる心理について」 分割売買は非合理的で言い訳がましい? 戦略と戦術

先月の週間ダイヤモンドに、以下のような記事が掲載されていました。

(引用開始)

山崎元 「売買を分割したくなる心理について」

・・・こうした方も罠にはまるくらい、分割売買の癖は広く定着している。
理屈では、仮に円安になるという理屈をもって資金の一部でリスクを取るなら、自分が適切だと思うその「一部」の金額を一時に投資してしまえばいい。そのほうが手数料が安いし、「円安になる可能性が大きい」と思っているのだから機会利益(得べかりし利益)の損失も少ない。・・・
しかし売買を分割すると、なんとなくやりやすいのはなぜなのか。・・・まず、当面の最高値を買ってしまい、あとで後悔する可能性が減少するという「後悔の事前回避効果」があって、経済的な損得として合理的ではなくても心理的に楽だ。そのときに「追加投資するために資金を取ってあったのだ」というかたちをとることが出来ると、予想が外れたことを受け入れやすくなる。・・・言い訳や自慢をしたい心理が、投資家を合理性から遠ざけることもおわかりいただけるだろう。
・・・ともあれ、急には難しくても、合理的に割り切って「資産運用全体をその時々に最適に配分する」と考えるほうが得であり、個人の資産運用も例外ではない。プロやメディアにも、早くそうした常識を持ってもらいたいものだ。

週間ダイヤモンド 2007/02/24

(引用終了)

指摘の点は、以下の3つでしょう。
・分割売買は、運用の理屈に合わず、合理的ではない
・分割売買は、言い訳や自慢をしたいという心理にマッチしているだけ
・運用資産全体の適正配分のほうが重要で、その配分内でフルインベストすれば問題ない

(1)まず、本当に、分割売買は合理的ではないのでしょうか?

合理的とは、一般的には「論理にかなっている状態」と理解されています。ですが、この場合の経済的な話の文脈において、(経済的)合理性とは、簡単に言うと「儲かるかどうか、損得勘定で得かどうか」ということになります。そもそも、合理(的)に対応する英語"reasonable/reason"の語源である"ratio"とは、「拝金主義、徹底的な損得勘定」というニュアンスがあるのです。

ですので、理屈はともかく、分割売買のほうが儲かるなら、それは合理的だと言うことが出来るのです。そもそも、理屈を重視する経済学者やエコノミストが、運用で儲かっているという話をあまり聞きません。私たち一般市民は、「食えない経済的理屈」ではなく、「実際に儲かるやり方(あれば)」を求めているのです。

さて、分割売買ではなくて、一時に思い切って投資する「全力投入」が優れている理由として、記事では次のようだとされています。
・手数料が安い
・機会利益の損失が少ない
・一部を買ってからその値が下がると、常識的にはリスクの負担力は減少する

小職は次のように指摘します。

・分割売買では、確かに手数料は増えるが、それを上回るメリット((2)で言及)が存在する
・「機会利益の損失」とは、要するに「あの時、全力で買っておけば儲かったのに」ということだが、相場観が無いのにそう簡単に底で買う(天井で売る)ことができるはずが無い
・確かに、分割売買で買い下がるときは、リスクの負担力は減少するとも言えるが、そもそも分割売買とは「ポジションの操作により、トータルで買値(売値)を有利にする」ことが目的なのだから、問題ない
・買値の分割だけではなく、玉の数(ボリューム)を含めたポジションの操作が重要なのに、それに言及することなく「分割売買は不利」とは、性急すぎる
・実際に、分割売買は「正しく練習した投資家にとっては、コンスタントに儲かる投資手法」であるのだから、その事実をもってして「(プロの)分割売買は合理的」と言い切ることも可能ではある

(2)次に、分割売買は、言い訳や自慢をしたいという心理にマッチしているだけなのでしょうか?

結論から言いますと、「投資の戦術においては、自分のメンタル面である『恐怖心、射幸心』『興奮、絶望、思い上がり』をコントロールすることが、とても重要」であるということです。

これは、言い訳や自慢とは全く異なる種類の「心理的効果」なのです。市場の流れや、いろいろな情報、それに乱高下がもたらす興奮や絶望によって、勝手に市場から退場してしまう個人投資家がなんと多いことでしょうか。

そして、「(プロの)分割売買は、自分の心理面をコントロールするという面でも有効」ということは、このブログで何度も言及しているところでもあります。

これも何度も書いていることですが、自分の心理面をコントロールできない(しようとしない)方が、今後ありうる経済的動乱を生き抜くことは難しいのではないでしょうか?大事なことなので、よく考えてください。

(3)最後に、運用資産全体の適正配分のほうが重要で、その配分内でフルインベストすれば問題ないのでしょうか?

「運用資産全体の適正配分が重要」という点には同意できます。これは、資産運用戦略ですので、ファンダメンタル的な視点からの分析になります。ですが、言うは易く行うは難しですので、「単純に適正な配分をするだけで、長期的には必ず儲かる」ということはありません。それは、「証券会社や運用会社が運用する、複数の資産クラス(国内株式、外国株式、国内債券、外国債券、REIT)に分散する分散型ファンド」が、必ずしも儲かるわけではないということと同じです。

ファンダメンタル投資を学ばれるには、バフェット、グレアムなどのテキストをしっかりと読み込んでください。

そして、このブログでは何度も指摘しているように、大きな戦略としては、『今後の日本の経済を見通したときに、海外株式投資を主力にせざるを得ないことは自明』なのです。

戦術として、「フルインベスト(手持ち資金を使い切って投資すること、全力投資)」は、必ずしも適切ではありません。何度も繰り返し書きますが、「満玉張るな」なのです。

たとえば、日本の証券会社が販売する投資信託は、設定日から数日間で,集めた資金のほとんどを使い切ってしまうので,相場観もなにもあったものではないという指摘もあります。「思い立ったが吉日なので、フルインベスト」では、資産運用のプロと称するには嘆かわしい限りです。

以前も書きましたが、『戦略と戦術の両方が重要』なのです。

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関連した過去の記事も参照ください。

(開始)

「経済状況の発展段階説 ヘゲモニーサイクル 永遠に成長できる国はない 国際分散投資が必要な理由」

永遠に単調な成長を続けることのできる国はありません。日本とて、例外ではないのです。日本国が、壮年期から老齢期に移行する国であるならば、自国経済の弱体化や自国通貨の下落は避けられません。

そこで国際分散投資をすることで、自国の金融資産の目減りを防ぎ、衰退をマイルドにすることが可能と考えます。株式市場は、その国の成長率と相関があることは基本的には間違っていないと思います。また為替は、長期的にはファンダメンタルズ、所得収支・資本収支で決まると考えて良いと思います。

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「ファンドの手数料 日本株戦略「1兆円」ファンド 人が運用する投資信託は指数に負けることが多い」

その原因は、ファンドの資金が大きすぎて機動性が損なわれる(安値で買って高値で売り逃げることが難しい)とか、動きを先回りされてしまい高値で買わざるを得ない、などとされています。それ以外の原因として、「信託報酬などの手数料」もあるのではないでしょうか。

ファンドマネージャーががんばって運用する投資信託は、指数に負けることが多いようです。「投資信託で儲ける」というのは難しく、逆に「投資信託で老後の資金を失った」という人のほうが多いのではないでしょうか。

(コメント欄)設定日から数日間で、集めた資金のほとんどを使い切ってしまうので、相場観もなにもあったものではありませんね。

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「バフェットが語る「インフレに勝つ株式投資」 究極のファンダメンタル投資 インフレ、ROA、グレアム」

なんだか騙されたような気がしますか?しかしながら、このようなグレアム的な投資手法によって、バフェットは世界二位(ちなみに1位はビル・ゲイツ、3位はラクシュミ・ミッタル)の富を築いたのです。その事実は誰にも否定できません。

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「資産保全の本当の意味」

このような心の持ちようを解決しない限り、国家破綻があるかどうかに関係なく、本当の意味での「資産保全」はできません。逆に言いますと、国家破綻があったとして、パニックになる人から、本当に破綻していくのだと思います。

・・・自分の心の中のお金に対するメンタルな部分を鍛えることが必要です。

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「日本株式投資の真実(4) 不二家と「株の裏」 誰が空売りを? 仕手筋?それともインサイダー?」

ではどうすれば良いのでしょうか?何度も書きますが、それは、読者の皆様がご自身で考えなければならないことです。今後の厳しい経済情勢を生き抜くには、『自分自身で考えること』が必要なのです。冷酷なようですが、それが現実です。

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「投資の基本と、BRICSへの姿勢 キャリートレードの解消・投売りが一巡するまで調整は続く」

特に、「買うときも何回も分けて買う、売るときも何回も分けて売る」のは、分割売買といって、プロ的な手法です。ファンダメンタル投資であっても、分割売買を取り入れることで、ギャンブル精神の抑制、心理的な負担の軽減と、それによるパフォーマンス向上が期待できます。

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「FX(外国為替取引)の記事 為替の予測は短期ほど不可能 満玉張らない・相場の動きを感じる」

その中で、「為替の予測を当てることは、短期になるほど不可能」につきまして、その通りと思います。外貨の買いは、あくまでも、日本円に対するリスクヘッジですので、円高リスクがあらかじめ許容できるレベルにとめておくのが上手なやりかたです。そのためには、

・余裕資金を持つ (満玉張らない、全力投球をしない)
・相場の動きを感じる

ことが重要です。もっと言いますと、長期投資を考えるほど、「テクニカル指標を見ないほうが良い」です。

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「ファイナンシャル・リテラシー 投資のメンタル面 金を持てる器量・投資のルール・社会還元 経済的独立へ」

・グラフを眺めていると、最安値で買って最高値で売りたくなる。でも、それは大きな間違いなのだ。
・売買というものは、個性を持ち、そのうえ「欲」「恐怖心」「動揺した気持ち」を持った人間=自分がやるのである。「その人なりに」取れるところを、取れる方法で取るのが相場なのだ。

(終了)

投資ブログ「国家破産・財政破綻に勝つ資産運用」で紹介している参考図書も参照ください。

詳しくは、以下の書籍も参考にされてください。
「バフェット流長期投資」
「バフェット投資の王道~株の長期保有で富を築く/ロバート・マイルズ」
「バフェットからの手紙/ローレンス・A・カニンガム」
「バフェット流投資術(CDブック)/ロバート・P・マイルズ」
「バフェットからの手紙/ローレンス・A・カニンガム」
by kanconsulting | 2007-03-11 14:53 | 資産保全一般
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