世界同時株安と円高(4) 円高の理由と中央銀行による流動性供給の弊害 世界恐慌かスタグフレーションか

過去のエントリー「世界同時株安と円高(3) 問題の本質はCDO発の信用創造縮小 クレジット・スプレッドは急拡大」にて、問題の本質は、CDO発の信用創造縮小(信用収縮・クレジットクランチ)であることを述べました。また、この事態を収拾するには、以下の事項が必要であることを示唆しました。
・投資銀行・証券会社・ヘッジファンドなどの含み損が明らかになり、それが収拾可能な金額であるとコンセンサス(納得)が得られること
・企業が、社債市場で資金調達することが十分可能になること
・インターバンク間の資金決済がスムーズに行われ、資金ショートしないと了解が得られること

さて、その後はどうなっているでしょうか?先日は、「さらにクレジット・スプレッドが拡大して二番天井を打つ可能性もある」述べました。一言で言うと、8/15近辺の一番底(クレジットスプレッドとしては一番天井)のあと、先週に二番底をつけたと判断しています。

その根拠は、「世界株式場帳」「ボラティリティ指数」です。

私が記録している「世界株式場帳」から受ける印象では、一番底、二番底のあと、回復基調にあると判断しています。ただ、中国株式市場などは回復が速すぎるため、本当に調整が済んだのか(もう底は来ないのか)という点では、多少の疑問は残ります。

※世界株式場帳とは:世界各国の株式市場ETFの終値を毎日記録した帳面。国家破産を生き残るための世界株式投資のために必要であると、kanconsultingが提唱している。場帳の必要性は、林輝太郎の著書(この記事の最後尾にリンクを記載)を参照。

また、ボラティリティ指数(VIX, CBOE VOLATILITY INDEX, Chicago Options)の変動を見ても、8月中旬の一番天井、先週の2番天井のあと、安定降下をしそうな感じです。

※ボラティリティ指数とは:市場のボラティリティ=ブレ幅をあらわす指数(オプション)で、乱高下するほど値が高くなる。恐怖指数とも呼ばれる。もちろん、この指数も場帳に記載している。

a0037933_1893992.jpg


a0037933_1810180.jpg



---

さて、それにしても、なぜ全通貨に対して円高だったのかという疑問が残ります。

その答えを一言で言うと、これまで何度も指摘しているように、
・この急激な円高は、実需によるものではなく、仮需に起因することは明らか
・一因は、円で資金調達をしていた機関投資家が、世界同時株安を目にして、あわててポジションをクローズしてきている、という、アンワインド(巻き戻し、仮需の決済)
・為替のみの純粋な円キャリートレードだけではなく、株式市場・債券市場・商品市場などを対象とした、広範な市場でキャリートレードがあっただろう
ということです。

また、このブログでは、以前から、円ショートのキャリートレードの副作用を指摘してきました。『機関投資家によるジャパンマネーショートのキャリートレードが、めぐりめぐって世界の金融市場の乱高下をもたらしている』と言われているのです。「世界の過剰流動性を生み出しているのは日本の超低金利」という報道もあります。

しかし、「キャリートレード(の解消)が(今回の円高の)主因であるはずがない」という意見もあります。たとえば、為替王のブログでは、次のような記載もありました。

(引用開始)

円高緊急レポート(8/17)

昨夜、ドル円レートは一時、1ドル=112円00銭台まで円高になりました。・・・このような急激な円高を受けて、「円キャリートレードが解消された結果だ」・・・といった専門家のコメントが見られますが、私はそうは思いません。

今日のポジション(8/17)

私は、“円キャリートレード”によって円安が生じたとは思っていませんが・・・

(引用終了)


為替市場は世界中に分散しており、各国の株式市場のように統制されたものではありません。しかも、基本的には、インターバンクの相対取引で決まるものですので、「誰が、どのくらい、通貨を買った/売ったのか」という正確な統計は、得られません。加えて、為替取引のうち、どの程度が実需で、どの程度が仮需なのかという正確な値も得られません。

しかしながら、これまで、日銀が円をジャブジャブに供給してきたというのも事実です。マネーサプライを見れば、その事実は明らかです。日本企業はこれまで資金需要が弱く、家計(一般家庭)もそれほど借り入れを起こしているわけではありません。では、そのマネーはどこに消えたのでしょうか?インターバンクを通じて、(海外の)機関投資家に流れている部分の寄与が大きいのだと思います。海外の機関投資家としては、今回のサブプライムショックの影の主役である投資銀行(ゴールドマン・サックス、ベアー・スターンズなど)、ヘッジファンド(ベアー・スターンズ傘下など)なども挙げられるでしょう。彼らは、投資効率(ROE)を上げるために、担保(債券など)をテコにして、日本円の借り入れを起こしてレバレッジを効かせてトレードしているのでしょう。

参考までに、円のマネタリーベースのグラフを挙げておきます。

a0037933_18251722.jpg



ヘッジファンドの運用成績を見てみましょう。たとえば、ヘッジファンドの戦略の一つである「マーケット・ニュートラル(市場のサヤ・歪みに着目し、市場の騰落にかかわらず利益を上げる)」の成績を見てみましょう。「ゴールドマンサックス・日本株式マーケット・ニュートラル・オープン」は、8月まで順調に成績を伸ばしてきましたが、成績が急悪化していることがわかります。この一因として、
・市場の急変により、ポジションの損が膨らみ、ポジションの解消を余儀なくされたこと
・信用収縮による資金繰りが悪化で、リスク許容度が低下し、ポジションの解消を余儀なくされたこと
が挙げられるでしょう。「やむなくポジションを解消して、キャッシュ(現金)にすること」は、FX・先物・株式信用取引のロスカットと同じく、強制的な損切りとほぼ同じ意味です。

a0037933_1849564.jpg



この現象は、世界のヘッジファンドでも同じです。HFRX(ヘッジファンドのインデックス)を見ると、この8月の成績は、8つの代表的な戦略(株式マーケットニュートラル、相対価値、CBアービトラージ、合併アービトラージ、イベント分析、破綻証券、株式ロングショート、マクロ)のうち、合併アービトラージを除く全ての戦略平均でマイナスとなっています。

a0037933_18565940.jpg



つまり、似たような戦略を取っているヘッジファンドは、8月にはおおむねマイナスであり、このポジション解消による換金売りが、市場に影響を与えたのでしょう。
まさに、「機関投資家によるジャパンマネーショートのキャリートレードが、めぐりめぐって世界の金融市場の乱高下をもたらしている」のです。

---

さて、各国の中央銀行が、すさまじい量の流動性(資金)を注入して金融不安の沈静化を図ったということは、すでに過去のエントリーで述べたとおりです。
ですが、よく考えてみると、こういったマネーは、めぐりめぐって、さらなる市場の乱高下をもたらす可能性もあるのです。これまでは、ジャブジャブに刷られた日本円が、過剰な流動性の供給源でした。加えて、アメリカや欧州もそうすると言うのです。
アメリカでは、FRBが公定歩合を下げることが織り込まれています。金利が下がり、多量のマネーも供給されるのです。それにより、アメリカ株・世界株は反発することとなりますが、回復の実態を伴ったものではないので、再び暴落といった乱高下という事態が考えられます。

その過程で、株式などは信じられずキャッシュ(現金)だけが頼りだ、という世界恐慌が出現するのか、あるいは、ジャブジャブに供給された通貨が信用を失い、不景気なのにモノが異常に高いというスタグフレーションが出現するのかはわかりません。

※恐慌とスタグフレーションについては、下の図を参照ください。

a0037933_20554598.jpg



金利、為替、株価、物価といったパラメーターは、いろいろな拮抗する経済的パワーのバランスによって決まる複雑系です。過剰な流動性が供給されることにより、その振れ幅が大きくなり、予想もつかない事態が出現する可能性があるのです。

まして、ドルそのものも、その信任は自転車操業です。ですが、この話は別の機会に譲ります。

---

結論を書きますと、

・今回のサブプライム・ショックに起因する世界株安は、二番底をつけたと判断
・しかし、投資銀行・ヘッジファンドなどの含み損が全て明らかになっておらず、さらに信用収縮が進むという可能性は残る
・各国の中央銀行が流動性を供給しているが、これにより、短期的には社債市場やインターバンク間の資金決済がスムーズに行われるようになる可能性が高いと見ている
・しかし、各国の中央銀行が流動性を供給しているが、これが、中期的にはさらなる市場の乱高下をもたらす可能性があり、注意が必要

ということです。

このような状況の中で、私たち一般国民は、繰り返しになりますが、

・市場の変動に右往左往することなく、冷静に市場(相場)を見ること
・余裕資金で、外貨と、世界株式に、長期積み立てで投資すること
・投資の戦略と戦術を守り、ギャンブルはしないこと
・このような経済混乱の時期は、よい買い場ではあるが、全力投入はしないこと

が必要なのだと思います。

投資ブログ「国家破産・財政破綻に勝つ資産運用」で紹介している参考図書も参照ください。

---

関連した記事を、「株式日記と経済展望」から引用します。

(引用開始)

為替市場から見るとドルとユーロの暴落と円の急騰は何を物語っているのだろうか? 円キャリによるドル経済圏とユーロ経済圏にバブルが起きた。世界中が好景気に沸いて株高と不動産バブルに沸いて、日本だけが株安と不景気が長く続いてゼロ金利で資金需要は国内では無く、日本の資金は海外に流失していった。

ユーロ高とヨーロッパの不動産バブルは日本からの資金で起きたのだろう。アメリカではサブプライムで不動産ブームも終わりを迎えましたが、ヨーロッパの不動産バブルもそろそろ終わろうとしている。だから中央銀行の対応を見ると欧州中銀の資金供給が一番大きく、ヨーロッパの不動産バブルが大きかった事を物語っている。

サブプライムだけが問題ならアメリカだけの問題ともいえますが、欧州中銀が資金供給した金額が一番多いということはEUが不動産バブル崩壊の規模が大きい事を示している。さらに世界各地の不動産バブルにも波及して、世界の投機資金は円キャリの逆流によって昨日と今日で7円もの円高になっている。今回の世界同時株安は日銀の金利引き上げによるものではなく、欧米のバブル崩壊によるものだ。

今月の日銀の金利の引き上げは不可能になり、福井総裁が強行すれば世界金融恐慌を起こしかねない。むしろ金利の引き下げで不安定になった世界の金融を落ち着かせる必要がある。エスプレッソダイアリーに書いてある通りに日本のゼロ金利からの金利の引き上げによる金融市場の変調が現れ始めたのだ。

USドルが果たしてきた世界の基軸通貨の交替期が来たのであり、円の役割は世界金融においてますます重要性が高まってきているように思える。それは円ドルチャートやユーロ円チャートを見れば分かるように、世界の投機マネーは大変動があるときは一番強い通貨に集まる傾向にある。つまり円が世界の基軸通貨になることが望まれているのだ。

---

夏休みなのに株の暴落が止まりませんが、9月のファンド解約分の払い戻しの為の資金を確保する為に売らざるを得ないのであり、それが15日から出てくるからだ。それが分かっているのだから前もって空売りをかけていれば確実に儲かるのですが、ファンドの方はそんな余裕もないようだ。おそらく公的なところからの買い支えなどもあるのでしょうが、金融株や優良株ほど売られるのは海外からの換金売りなのだ。

「株式日記」を読んでいただいている読者の方は、現在何が起きているのか分かっている事と思いますが、テレビなどでは連日株が大きく下げている事は報じても、サブプライムがどうのこうのと経済記者たちは言っていますが、現在起きているのはクレジットクランチで世界各国の中央銀行は無制限の資金供給をしてパニックを抑えようとしている。

現在の世界で起きていることは80年代に日本で起きていたことであり、80年代の日本企業は財テクと称して本業をほったらかしてマネーゲームにのめり込んでいた。だぶついて金利の安かったユーロダラーを借りて株や土地を買っていたのだ。大衆も銀行から金を借りて住宅やマンションを買ったり株を買っていた。それが90年代に入って株や土地が暴落して、最初に住専などが破綻した。

住専に相当するのがサブプライムローンであり、銀行は焦げ付きかけた住宅ローンを住専に肩代わりさせていたところも多かった。しかしサブプライムだけの焦げ付きだけで済むわけはなく信用不安まで引き起こす状況になっている。欧米のファンドや金融機関はこれからが正念場で、ファンドや銀行の倒産騒ぎが起きてくるだろう。

---

自分がファンドマネージャーになったつもりで考えてみたらいい。
私たちのような個人投資家は塩漬け株がいくらあろうが含み損がいくらになろうが誰からも責任を問われない。
しかし、彼らは違う。
顧客から運用を託された資産を増やしていくことが義務づけられているのだ。
つまり、運用している資産の一部に大幅な欠損を抱えれば、それを穴埋めするために利益が出ている資産を処分するだろうし、基準価格の下落により、顧客からファンドの解約を求められればキャッシュを用意するために資産を処分しなくてはならない。
まして全面安の局面が続けば先回りして利益を確保しようというのは誰でも同じだ。

そして、金融用語辞典を見ると、キャリートレード(carry trade)というのは、低金利の通貨を借りて、高金利の通貨などに換えて運用すること、とある。
借金なのである。
例えば、100万円を借りて年利1%とすれば金利は1万円だが、誰が見たって、それはコストなのである。
円安、外国株高のときは、1万円の金利など気にもならないが、これが逆回転し出したら突如としてコストとしての存在価値が増し、たかが1万円と言えども余計なコスト要因は減らしたい、清算しようと思いたくなるのではなかろうか。
これが大きな流れとなれば、突如として雪崩を打ったような外貨売り(円買い)が始まるだろう。
今のところは、「円ローンの繰上げ返済」をやり始めたという段階なのだろうが、今のサブプライム問題が長引くようだと9年前の悪夢の再現となるかもしれない。

今のところサブプライム問題に端を発した株安が中国には飛び火する感じは全くない。
世界中の投資家にとって最後の桃源郷みたいなものだ。
だが、1つだけ懸念がある。
果たして中国政府要人の投資家、あるいは彼らが絡んだ国営企業はサブプライム問題に関係してないのだろうか。
仮に彼らがそのような大ポカをしていても今のところは隠されているかもしれない。
中国株を大量処分することなどまかりならんと政府トップから厳命されているかもしれない。
しかし、そのような事態が隠されているとなると、いずれ背に腹は変えられなくなるヤツが出てくる。
そのときがセリング・クライマックス(selling climax)となるだろう。

円の暴騰か中国市場の暴落、おそらくそのときが今回の株安の大底となろう。
9年前も10月の円暴騰が世界大恐慌が始まると言われた株安の連鎖が終わったときだった。
そこから世界的なITバブルへの道へとつながったのだ。
ポストBRICs投資、私はそこまで待ってみようと思っている。

---

サブプライム融資を発端とする米国の不動産バブル破裂が話題となっている。しかし、ブルームバーグの記事によれば、英国の不動産バブルは米国よりも深刻だという。その原因としては、1.不動産価格の上昇が継続していること、 2.金利上昇が継続していること、 3.金融機関の多くが所得証明なしに貸し出しを行うなど、返済能力の評価が不十分であること、等が挙げられている。

現在の世界的な過剰流動性が逆流し始めるならば、英国でも金融機関が貸し出し余力を失い、不動産バブルは急に蛇口を止められて破裂するだろう。更に、国際金融資本の本拠地であるロンドン金融街の繁栄に依存しきった英国経済は大手金融機関の相次ぐ破綻で大打撃を受け、大恐慌に突入する可能性が高いと思われる。

欧州諸国の中で不動産バブルが最も深刻なのはスペインである。ただ、2010年以降に太陽活動の低下に伴って欧州が寒冷化する可能性があり、スペインは寒冷化の打撃を受ける北欧諸国の住民の避難先として住宅需要が下支えされる可能性がある。英国は欧州寒冷化の打撃が最も大きい国の一つであり、住宅需要の下支えは存在しないだろう。

欧州経済で注目すべきことは、ドイツに不動産バブルが存在しないことである。このため、バブル崩壊による内需減少はドイツではほとんど起こらないと想像される。この点は日本も同様である。石油・天然ガスの輸出で蓄積した膨大な対外資産を有し、シベリア開発などの設備投資の高まりも想像されるロシア経済も成長を続けるだろう。近未来の世界では、恐慌の混乱の中でダメージの小さい日本・ドイツ・ロシアが経済的にも政治的にも急速に影響力を拡大すると想像される。英国は既に製造業を失い、北海油田も枯渇寸前であり、唯一繁栄している金融業も破綻がほぼ確実である。近未来の英国は英語だけが資産となり、ラテンアメリカとの言語的繋がりを有するスペインと同じ程度まで国際的影響力を低下させていくことになるだろう。

(引用終了)


---

参考文献 「変動感覚」についての参考書籍

以前から紹介しています株式投資の本ですが、基本精神はFXにも通じるものと思います。リンクの張ってあるものは、アマゾンから購入可能です。アマゾンで購入すれば、3000円以上は送料無料です。

(入門)
「株式上達セミナー これで成功は約束された/林輝太郎」
「株式成功の基礎 10億円儲けた人たち/林輝太郎」

(初級)
「あなたも株のプロになれる 成功した男の驚くべき売買記録/立花 義正」
「自立のためにプロが教える株式投資/板垣浩」

(中級)
「うねり取り入門 株のプロへの最短コース/林輝太郎」
「ツナギ売買の実践/林輝太郎」

(上級)
「株式サヤ取り」の参考書籍
「売りのテクニック/林輝太郎」
[PR]
by kanconsulting | 2007-09-02 21:03 | 経済状況
<< 世界同時株安と円高(5) クレ... 世界同時株安と円高(3) 問題... >>