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世界同時株安と円高(3) 問題の本質はCDO発の信用創造縮小 クレジット・スプレッドは急拡大

今回の世界同時株安の本質は、サブプライムではなく、これまで何回も指摘していますが、「信用創造の縮小(信用収縮・クレジットクランチ)」なのです。サブプライムは、起点に過ぎません。

どういうことでしょうか?データを引いて検証してみましょう。

下のグラフは、過去10年間の高金利債券(つまり低格付け)と国債の利回りの差、クレジットスプレッドです。

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(引用開始)
According to Merrill Lynch data, high yield corporate bond spreads tightened for the second day in a row today, and while that doesn't seem like much, it is the first time this month that spreads tightened for two consecutive days. The chart below shows the direction of high yield spreads since 1997 with spikes of 20% or more highlighted in red. With spreads widening by 90% (so far) since their lows on June 1st, this period ranks as the third most severe.
”ThinkB.I.G”
(引用終了:図もここから引用)

赤線が立っているところは、クレジットスプレッドが+20%以上拡大していることを示しています。赤線の箇所と、過去に経済的危機のあった時期は、対応していることがわかると思います。つまり、過去の危機においては、クレジット・スプレッドが大きく拡大して、これも何度も書いていますが「質への逃避」が起こっていたということです。特に、2000~2003年の、世界株式調整期には、スプレッドが大きくなっていたことがわかると思います。

さて、今回のサブプライムショックでは、6/2~8/23近辺までで、90%の拡大となっています。これは、98年のLTCM破綻、00年のITバブル崩壊に続く、3番目の大きな拡大幅となっています。これが、今回の信用収縮の速度が急であったということを表しています。

ですが、クレジットスプレッドの絶対値で見ると、これら過去の最大値に比べて、そこまでの危機的状況ではない、と読み取ることもできます。

1998(LTCM破綻・ロシア危機):700bp程度 bp(ベーシスポイント)=0.01%
2000(ITバブル崩壊):1000bp程度
2002(エンロンなど会計不正):1100bp程度
2007(サブプライムショック):450bp程度

これだけを見ると、すでにスプレッドは天井を打って、安定降下に入っているようにも見えます。しかし、二番天井がある可能性もある、と指摘します。その理由は、別途述べます。

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さて、問題の起爆剤となったCDOはどうなっているでしょうか。

ABSとは:資産担保証券。ここでは、サブプライムローンなどを証券化したもの
CDOとは:債務担保証券。ABSを含むいろいろな債務などを混ぜてリスクをコントロールした証券。
CDSとは:クレジット・デフォルト・スワップ。信用リスクをお金に換えるデリバティブ。
ABX-HEとは:ABSを対象としたCDOのうち、流動性の高い20銘柄を指標化したもの。信用度に応じて、AAA、AA、A、BBB、・・・と格付けされている。BBB以上が投資適格、BB以下は無格付けのエクイティ(デフォルトリスクが高い)とされる。

参考のために、サブプライムと、CDOなど証券類のカネの流れを示した図を引用します。(「日経金融新聞」(2007.07.12) 「ジャパン・ハンドラーズと国際金融情報」より孫引き)

(このスキームの中には、すでにデリバティブが導入されています。一口にデリバティブといってもいろいろあるのですが、今回の危機は、すでにデリバティブに波及しているという見方も可能です。)

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さて、ABXのインデックスを見てみましょう。前回の引用(7/18)から比べて、大きく下落していることがわかると思います。

(グラフ 上からAAA、AA、A、BBB。いずれもシリーズ07、バージョン1)

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このように、AAA格はオーバーシュートの修正が入っていますが、AA格~BBB格は、もはや投資適格債券とは言えない値動きになっていることがわかると思います。

過去のエントリーでも述べましたが、CDOそのものは、サブプライムだけではなく、その他の社債などのまともな債券もミックスされています。なぜここまで忌避されるのでしょうか?

簡単に言うと、次のようになると思います。

これまで人気のなかった味の悪い肉(くず肉)を、ミンチにするという手法で、「安くておいしいミンチ」にすることが可能となりました。
しかし、このくず肉には腐っている肉が混入しているという疑いがあり、見分けのつかない一般人は、ミンチ全般を忌避して、正体のはっきりしているロースに人気が集中してしまいました。ロースの値段は上がったのです。ミンチは、ミンチというだけでどれも買い手がつかなくなり、ミンチ市場は閑古鳥が鳴く状態となりました。
ミンチの製造業者や、くず肉の卸業者は、自分でミンチやくず肉を抱え込み、倒産寸前という事態となりました。また、安物ミンチほど利益が大きいことに目をつけて、高級ミンチと安物ミンチの差で一攫千金をもくろんだテキヤは、大損を抱えることとなりました。
(ミンチのレトリックは、「広がる信用崩壊」を参考にしました)

くず肉:サブプライム、そのABS
ミンチ:CDO
ミンチにする手法:証券化
安くておいしい:高金利なのに格付けが高い
ロース:国債
ミンチ市場:低格付け(高利回り)債券の市場
ミンチの製造業者や、くず肉の卸業者:投資銀行、証券会社
テキヤ:ヘッジファンド

もう少し、データを引いて検証してみましょう。

国債(品質がはっきりしたロース)に人気が集中して値段が上がるということは、長期金利が下がるということです。下に、主要国の長期金利を示しますが、いずれも低下していることがわかります。これが、「質への逃避」が起こっているもうひとつのデータとなります。

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(”ThinkB.I.G”より引用)

投資銀行、証券会社については、今回の信用収縮の裏の主役とも言えますが、いずれも巨額の損失を抱えていると言われています。(GS:ゴールドマンサックス、MS:モルガンスタンレー、LEH:リーマンブラザーズ)

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それだけではありません。「広がる信用崩壊」によると、問題がまだ残っています。
・企業が社債で資金調達することが困難に
・インターバンク間の資金決済の担保が拒否され、資金繰りがショート
・ファンドのプログラミング売買が、信用収縮を加速させた

こういった問題に対して、各国の中央銀行が資金を注入して沈静化を図ったということは、すでに過去のエントリーで述べたとおりです。にもかかわらず、こういった信用収縮に関する問題は、まだ十分に解決されていません。

フィナンシャルタイムス(8/15)
「社債が売れない状態が続くと、企業の資金調達が難しくなり、実体経済への悪影響が広がり、株価も下がる。連銀や日銀など各国の中央銀行が動き出したことで危機が終息過程に入ったと見るのは間違いで、危機の第1幕が終わり、これからもっとひどい2幕目が始まると考えた方が良い。」 (和訳は「広がる信用崩壊」から引用)

エコノミスト(8/16)社説
「市場参加者の全員が売りたい状況なので、資産価値の下落がどこまで、どんな速さで続くのか、誰にも想像がつかない」
「今回の危機は(証券化という)金融界の新構造に深く根ざしているので深刻だ。もう危機は終わったと言っている人々は、馬鹿か、自分の利害を守るためにでたらめを言っているだけだ」 (和訳は同上)

だから、「さらにクレジット・スプレッドが拡大して二番天井を打つ可能性もある」と述べているのです。

くれぐれもご注意ください。
by kanconsulting | 2007-08-25 03:26 | 経済状況
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