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世界金融危機(9) アメリカの覇権と世界通貨ドルの尊厳死 ニューモンロー主義の予感 住専の遅い救済

「へまをしたウォール街の連中を我々の税金で救いたくはないからね」(ニュージャージー州、保険会社社員(26))
「民主、共和両党は何も決められず、互いに非難ばかりしている。政治には失望した」(コネティカット州、中堅企業役員(49))

法案に反対(法案否決を歓迎)しているアメリカ市民の声 日本経済新聞より

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皆様もご存知のように、金融危機収束の対策であった金融安定化法案が、アメリカ下院(衆議院に相当)で、228対205で否決されました。

私は、「それも潔い。延命治療を拒否するというのも、ひとつの選択肢だ。」と思います。大騒ぎするほどのことはありません。覇権国家アメリカと基軸通貨ドルの尊厳死を、静かに見守りましょう。

(アメリカは税金を投入しないが、日本などに出させよう、という戦略なのかもしれませんが、詳細に見てみると、違うようです。詳しくは否決の分析の項目にて)

歴史上、どんな覇権国家も、永遠に存続することは出来ませんでした。紙幣や国の借用証書が紙クズになったという事例に至っては、文字通り数え切れません。

アメリカは、世界リーダーの重責を十分に果たすことは出来ないとして返上し、アメリカはひとつのローカルな大国として生きていく、というニューモンロー主義の予感もします。

モンロー主義(Monroe Doctrine)とは:アメリカ合衆国がヨーロッパ諸国に対して、アメリカ大陸とヨーロッパ大陸間の相互不干渉を提唱したことを指す。第5代アメリカ合衆国大統領ジェームズ・モンローが、1823年に議会への7番目の年次教書演説で発表した。この教書で示された外交姿勢がその後のアメリカ外交の基本方針となった。
モンロー主義は、アメリカ合衆国の孤立主義政策の代名詞とされ、日本でも行政施策等、団体が行う他と協調しない独自の行為を「**モンロー主義」と称することが多い。
(wikipedia)

さて、

下院の否決内容を州別に見てみると、
・賛成票>反対票:ニューヨーク、カリフォルニア、アーカンソー、マサチューセッツなど10州(1人投票州を除く)
・ニューヨーク州 賛成25、反対4
・カリフォルニア州 賛成29人、反対25
・激戦区を選挙区とする議員で反対票を投じる傾向が強かった
・3分の2以上が反対票を投じた共和党では、ブッシュ大統領の地元テキサス州で反対票が圧倒
・フロリダ州 賛成11人、反対14

ということで、
国民感情としては「ウォール街の連中を救うのに、われわれ一般国民の税金を使ってくれるな。自分の後始末は自分でしろ。」
議員の判断としては「選挙が近い。国民感情に配慮すると、安易な法案賛成は出来ない。」
ということなのでしょう。

(もちろん、アメリカ国民は、問題はウォール街だけにとどまらず、実体経済に強い影響を及ぼしていることは分かっていると思います。であればこそなおさら、税金を投入することは心情的に許せないのでしょう。)

ということで、アメリカの税金は出さずに、日本などに債権を買わせよう、という戦略性は感じませんでした。そういった国家戦略は、政府、FRBなどで意思決定されるものです。

皆様もそうだと思いますが、私も「住専(特定住宅金融専門会社)」を思い出します。不良債権処理のために6850億円の公的資金を導入するかどうかの審議で、野党が税金投入に反発、ピケ戦術などで抗議したという話です。

特定住宅金融専門会社の破綻問題
バブルは崩壊、地価が下落、不動産業者の担保価値の目減りは大きく、土地は売るに売れない状況となり、融資先は元金返済どころか金利の支払いすら滞る事態となった。融資は固定化、塩漬けとなり、不良債権化していった。結果的に1社を除き破綻した。
破綻した住専には農林系金融機関(農林中央金庫、各県の信用農業組合連合会(信連)、全国共済農業協同組合連合会)を中心とした金融機関が貸し込んでおり、これらが貸し倒れ、処理が遅れる事による金融システムの破綻を避けることを目的に住専法が作られた。本来は、特定住専に乱脈融資を行った金融機関が貸し手責任を負うべき物で、実際に破綻処理ではほぼ9割弱について債権放棄に応じたが、それでも住管機構に対し預金保険機構の子会社として7000億円弱の公的資金が投入されることになったため多くの批判があった。
なお、破綻した特定住専は清算され、経営者および親会社である金融機関は民事および刑事で、住管機構及びその後身である整理回収機構によって経営責任や融資紹介責任を追及されている。
(wikipedia)

法案は通ったものの、資金投入が遅れたために、金融機関のさらなる連鎖破綻を引き起こしたことは、記憶に新しいところです。この過程で必要となった公的資金は、数十兆円という、膨大な額でした。

ということで、「資金を投入するなら、早期に。やらないなら、毒を食らわば皿まで。」ということだと理解しています。

関連したニュースを引用します。『経済恐慌懸念には、早すぎる』とありますが、これだけの金融機関の破綻、取り付け騒ぎ(あまり報道されませんが)、ドルのコール市場が機能していないことなどから、すでに恐慌は始まっているのではないでしょうか。

(引用開始)

エコナビ2008:米国発株安(その1) 金融当局、打つ手なし

米国の金融安定化法案が米下院で否決されたショックが、世界的な株価同時暴落など国際金融市場全体の危機に発展したことに、財務省や日銀など、日本の金融当局は、焦燥感を深めている。危機拡大を防ぐカギは、公的資金投入など、米当局の対応にかかっており、「米政治の動向を見守る以外、打つ手がないのが実情」(日本の財務省筋)だからだ。

 ◇短期市場、金利急騰 協調に限界「米の対応見守る」
「金融安定化法案が否決されるなんて夢にも思わなかった。米議会に法案を通せとも言えないし、日本がやれることは限られている」--。財務省幹部は30日午後、日本やアジアの株価暴落のニュースに苦渋の表情を浮かべた。危機に歯止めを掛けるには、米国の公的資金投入が不可欠。だからこそ、ポールソン米財務長官が最大7000億ドル(約75兆円)の公的資金投入による不良資産買い取り策を打ち出した直後の22日、先進7カ国財務相・中央銀行総裁(G7)は緊急に電話で協議。「米国が取った異例の措置を強く歓迎する」との共同声明を出し、金融安定化法案が米議会で早期に成立するよう後押しした。
日銀は29日、米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)などと協調し、金融機関が資金を融通し合う短期金融市場へのドル資金の協調供給を大幅に拡充、欧米金融機関の資金繰りを支え続けた。
だが、30日の東京市場では無担保コール翌日物金利が最高で1%に急上昇し、日銀の誘導目標である0・5%を大幅に上回った。同日のロンドン銀行間取引金利(LIBOR)のドル建て翌日物も、前日の2・56%から6・87%に急騰、過去最高の上げ幅を記録した。
「(金融危機の背後には)米金融機関の不良資産や資本不足の問題がある。流動性対策だけでは解決しない」(日銀幹部)。米国が本格的な公的支援に乗り出さなければ、市場の動揺は収まらない。
危機感を深めた欧州連合(EU)議長国の仏サルコジ大統領は29日、日米など主要国に危機打開に向けた緊急首脳会議開催を呼びかけた。しかし「仮に日米欧が協調利下げに踏み切っても、金融危機収拾への効果は期待できない」(国際金融筋)状況の中で会議を開いても逆に市場の失望を呼ぶ恐れさえある。来週末には米ワシントンでG7も予定されるが、共同声明作りなど日米欧の事前準備は進まず、「当面は米政治の動向を見守るしかない」(財務省筋)厳しい状況が続く。【須佐美玲子、赤間清広】

 ◇邦銀に影響波及 含み益急減、出資の損失処理も
中間決算の期末だった30日に日米の株価が急落したことは、日本の金融機関にも痛手だ。邦銀は米金融機関に相次いで出資したが、米株価の下落が続けば多額の損失を抱える。大手行は景気後退で業績が伸び悩んでいる。その中で、経営体力が低下すれば、融資に慎重な姿勢を強め、企業倒産増を引き起こしかねない。
30日の日経平均株価の終値は年初来安値の1万1259円。第一生命経済研究所の試算によると、大手行6グループの保有株の含み益は、3月末の3・9兆円から2・8兆円に急減する。経営の健全性を示す自己資本比率の低下は必至だ。
含み益にはまだ余裕があるため、大手行の経営を左右するほどではない。ただ、破綻(はたん)した米リーマン・ブラザーズ向け融資の焦げ付きなどにより大手行全体で総額1300億円の損失が判明した。
さらに、三菱UFJフィナンシャル・グループは、米モルガン・スタンレーに9500億円の出資を決めたが、このうち約3000億円分の普通株の取得価格は25・25ドル。モルガン株は29日、21ドルに下落しており、株価の低迷が続くと、三菱UFJは多額の損失処理を迫られる。
大手行の貸し出し姿勢が慎重になると、体力の弱い中小企業などで倒産が広がる恐れがある。
生保各社でも日本生命保険の9月末の保有株の含み益が3月末比で8000億円減の3兆4000億円となる見通し。朝日生命保険は保有株の含み損が3月末から800億円増えて1100億円となる見通しだ。【斉藤望、辻本貴洋】

 ◇経済恐慌懸念、早すぎる--高尾義一・朝日ライフアセットマネジメント常務執行役員
現状では金融以外の米国産業はそれほど深刻な影響を受けておらず、経済恐慌の懸念を抱くのは早すぎる。ただ、金融危機対応の遅れは実体経済の低迷を招き、金融機関の経営をさらに悪化させる悪循環につながる。そうなれば、比較的堅調な新興国経済も崩れかねない。金融不安が欧州にも広く波及しつつある状況を見ると、もはや米国だけで解決できる問題ではなくなっている。金融機関の不良資産開示▽原因の究明▽経営責任の明確化▽問題解決のための制度改革--をセットにした対策を協調して実施する必要がある。

 ◇景気、さらに打撃の恐れ--翁百合・日本総合研究所理事
本格的な公的資金の活用を盛り込んだ米国の金融安定化法案への期待が高かっただけに、米下院による同法案否決の影響は大きい。市場では信用収縮が進み、米国経済への深刻な影響も懸念される。米政府や議会は一刻も早く公的支援による政策対応を実現すべきだ。短期金融市場などでは信用リスクが高まり、ドル資金調達がさらに逼迫(ひっぱく)する恐れがあり、各国中央銀行は市場への流動性供給での協調を強化する必要もある。対米輸出の一段の落ち込みや、企業の資金調達難などで、悪化している日本の景気がさらに打撃を受ける恐れがある。

毎日新聞 2008年10月1日 東京朝刊

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米金融安定化法案否決 下院、11月選挙の影

【ワシントン=丸谷浩史】米金融安定化法案を否決した下院議員の投票行動は、11月選挙で激戦区を選挙区とする議員で反対票を投じる傾向が強かった。3分の2以上が反対票を投じた共和党では、ブッシュ大統領の地元テキサス州で反対票が圧倒。党幹部の威信が大きく低下している実態も浮き彫りになった。
州別(全50州)にみると、多くの金融機関が本拠を構えるニューヨーク州は25人が賛成し、反対は4人だった。1人だけが投票した州を除けば、賛成票が反対票を上回ったのはアーカンソーやマサチューセッツなど合わせて10州にとどまった。
信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)の焦げ付きが多いとされるカリフォルニア州は賛成が29人で、反対を4人上回った。フロリダ州も賛成11人、反対14人と賛成が反対に迫っており、両州選出の議員は深刻な状況を踏まえた投票行動だったといえる。(01:15)

日本経済新聞

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【主張】金融法案否決 米は震源地の責任果たせ
2008.10.1 03:42

金融危機収束に向けた包括的対策として期待されていた金融安定化法案を、米下院が否決した。大統領選と同時に行われる11月の議会選挙を控え、税金投入による金融機関救済との有権者の反発を恐れた議員らが反対票を投じたようだ。
米政府と議会指導部が大筋で合意していただけに予想外の否決である。このままでは、米国は、サブプライム問題の震源地どころか、金融危機の引き金を引くことにもなりかねない。
なすべきことは明白だ。政府と議会は再度、協議して早急に修正案をまとめるべきだ。
下院での採決は、賛成が205、反対が228で、与党・共和党議員の多数に加えて、議会多数派の民主党の一部も反対に回った。法案は、政府と共和、民主両党の指導部が数日かけてまとめた。金融機関からの不良資産の買い取り制度だけだった当初の政府案に、政府が金融機関の株を取得する権利や救済する金融機関の責任を問う手段などを加え、納税者負担の最小化に向けた対策に知恵を絞ったはずだった。
それでも、議員らの多くが否決に回った。2年ごとに選挙がある下院議員は世論に迎合しがちだ。日本も1990年代、巨額の不良債権を抱えた住宅金融専門会社の破綻(はたん)処理で、6800億円の公的資金の投入が世論の反発を招いた。そのために、金融機関の不良債権処理が遅れ、山一証券や北海道拓殖銀行などが破綻した。
米政府や議会はそうした日本の経験を知らぬわけはあるまい。公的資金投入で早期に不良資産を処理する決断が、最終的に預金者のためになり、不良資産を処理するコストも小さくなる可能性が高いと言葉を尽くして米国民に説明し、理解を得るのが大事だ。
下院の否決を受けて世界中の金融市場では、株安、ドル安が一気に拡大した。株が暴落し、資金繰りに窮した末に、米銀行のワコビアはシティグループに救済買収され、英中堅金融機関の「ブラッドフォード・アンド・ビングレー(B&B)」なども国有化が決まった。日米欧の中央銀行が協調してドル資金を大量供給して金融システムを支えている。
ブッシュ大統領は法案否決後、すぐに、「前進するための方策を考え出す」と強調した。その言葉通り、金融恐慌を防ぐ、実効性ある方策を早急に示してほしい。

産経新聞

(引用終了)
by kanconsulting | 2008-10-01 09:49 | 経済状況
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