これまでのエントリーで、次のように述べました。
(転載開始) バラマキ・ヘリマネはどのような結果をもたらすか 3年後の消費税アップ 日本に限らず、アメリカも、ユーロ圏も、景気対策としてバラマキをやることになるでしょう。加えて、金融危機対策のための「低金利」と「量的緩和」もセットです。 実は、バラマキをやるにしても、金融危機対策で資本注入をやるにしても、それほど原資がないのです。この問題は、別のエントリーで述べます。 その結果、何が起きるでしょうか?インフレ(景気悪化と併発すればスタグフレーション)です。 (転載終了) また、銀行などの金融機関の保有する評価損を国・中央銀行にリスク移転させる「飛ばし」についても、これまで次のように指摘してきました。 (転載開始) 信用危機は警報ゾーン スターリン暴落を超えた第二の暴落 毎日がブラックマンデー(地獄)です 何度も書いていますが、「国を巻き込んだリスクの飛ばし」を見透かしたような、値動きです。これに対抗して、日銀がジャブジャブに資金を流し込むことで、かろうじて長期金利の上昇を押さえ込んでいるような感触です。 --- 怒涛のような無制限ドル供給 文字通りの青天井 時価会計の停止とダブルスタンダード FRBを中心とする各国の中央銀行による流動性(おもにドル資金)の供給は、文字通りジャブジャブに行われてきました。その上、限度額を外して、無制限に供給するとは、まさに、なりふりかまわない、緊急対策といえるでしょう。 何度も書きますが、リスクは、それぞれの国に飛ばされたことになります。 さらに、アメリカが中心として進めてきた「時価会計」を、「不良債権を持つ金融機関にとって都合が悪い」として、時価会計の緩和や一部停止が行われています。日本がバブル崩壊後、不良債権の査定を厳しく行わざるを得なかったことと、対照的です。まさに、「ダブル・スタンダード」と言えるでしょう。 しかし、このような「先送り」「飛ばし」をやらない限り、冗談ではなく、世界恐慌になってしまうという、瀬戸際にあるのでしょう。 --- 「世界金融危機 リーマンブラザーズ破綻と信用崩壊(5) 公的資金を75兆円投入 米国の財政支出は100兆円」 次のステージは、「(政府・公的機関による)不良債権の買取」ですが、これは、政府やFRBが、「貸し手」から「買い手」になることを意味します。何度も言っていますが、これは、リスクの移転、つまり「飛ばし」をやる、ということなのです。 「劣化した金融機関の資産のアメリカ政府による買取」は、アメリカ国民の税金で支払う、ということです。本当に、すでに財政支出となった1兆ドル(約100兆円)や、連邦政府の債務上限の10兆ドル(約1000兆円)もの巨額の支払いが、将来のアメリカ国民に可能なのでしょうか?そもそも、その原資となるアメリカ国債を、誰が買うのでしょうか? ドルの破綻は、文字通り、現在の貨幣経済システムの死刑執行であり、システムに組み込まれているすべての人が路頭に迷うことになるからです。すべての証拠を吹き飛ばし、借用証書を焼き払うための、戦争の予感がします。 --- 「世界金融危機 リーマンブラザーズ破綻と信用崩壊(4) 日米欧による「USドル」供給 基軸通貨ドルの防衛」 この協調供給の本質を一言で言いますと、基軸通貨USドルを防衛する、ということだと思います。いみじくも、伊吹文明財務相が、「アメリカ(FRB)の要請による、米ドルの信認低下を防ぐ措置」と言っているとおりです。 ここまで巨額の、文字通りジャブジャブの状態になるまでマネーを注ぎ込んでも、本質的な危機の解決にはならないことは、すでに述べているとおりです。あくまで延命措置、ということを忘れてはなりません。これで、リスクはアメリカ政府・FRBに「飛ばされた」ということになります。これで解決にはなりません。供給した過剰のドルが、ドルそのものの信認を損なうことになるからです。 (転載終了) 具体的に、どの程度の財政支出が必要かについては、議論がありますが、ニュースによる数字を合計すると、次のようになります。 (転載開始) 世界金融危機(8) ヘッジファンドの危機とアメリカの格付け 公的支援は1.5兆ドル(15130億ドル) 財政赤字の急膨張は避けられないとの見通しです。どういうことかというと、 2009会計年度(08年10月―09年9月)の財政赤字は、 ・4380億ドルと、過去最大 ・米政府系住宅金融機関(GSE)大手2社の支援に伴う支出は含まず また、金融安定化策として、金融機関が抱える住宅ローン関連の不良債権を最大7000億ドルの公的資金を投じて買い取ると提案されていますが、住宅価格の下落に歯止めがかからず、米政府による不良債権買取は到底7000億ドルではすまないという見解もあります。 今回の不良債権買い取り案に加えて、 ・住宅ローン債務者支援:最大3000億ドル ・GSE2社への支援:2000億ドル ・GSEによる住宅ローン担保証券購入:1440億ドル ・アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の公的管理:850億ドル ・MMF元本保証:500億ドル ・ベアー・スターンズ買収:290億ドル (不良債権買取・公的支援・買収などの)合計:約1.5兆ドル(15130億ドル) (転載終了) と、単年度にもかかわらず、すさまじい公的支出があることがわかります。 FRBの内実について、ビジネス知識源が、FRBの貸借対照表(B/S)を検討していましたので、引用して解説したいと思います。 (引用開始) 【(1)2007年8月6日のFRB:金融危機勃発の直前】 左側が、FRBが保有する証券(債券)、右側が、その証券を買ったときの、原資です。普通の企業の貸借対照表と、同じ構造です。 全米の、8つの連銀の合計(連結)です。勘定科目はまとめ、単純化しています。まず、米国の金融危機がサブプライムローン危機から勃発する直前のものです。 【保有資産】 【負債と資本】 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ●米国短期国債 28兆円 ●$紙幣発行高 77兆円 ●米国長期国債 51兆円 海外の中銀からの借入金 2兆円 短期貸付金 2兆円 米国政府からの預金 0.5兆円 通貨スワップ 6兆円 当座預金預かり 0.5兆円 資本 3.4兆円 その他資本 2.8兆円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 資産合計 87兆円 負債・資本合計 87兆円 (中略) 【(1)2008年10月1日:金融危機勃発後の悪化】 【保有資産】 【負債と資本】 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 米国短期国債 2兆円(-26兆 $紙幣発行 80兆円(+3兆) 米国長期国債 46兆円(-5兆) 海外中銀借入 7兆円(+7兆) 短期貸付金 8兆円(+6兆) 証券会社借入2兆円(+2兆) ●TAF 15兆円(+15兆) ●当座預金 9兆円(+9兆) ●銀行向けプライマリー 政府預金 0.5兆円 貸付金 5兆円(+5兆) ●米財務省からの ●証券会社向けの 借入金 34兆円(+34兆) 貸付金 15兆円(+15兆) FRB資本 4兆円 ●MMF向けの ●その他 14兆円(+11兆) 貸付金 15兆円(+15兆) ●ベアスターンズ向けの 貸付金 3兆円(+3兆) ●AIG向けの 貸付金 6兆円(+6兆) ●日銀及びECBとの 通貨スワップ 34兆円(+28兆) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【資産合計 150兆円(+73兆)】 【資産・負債 150兆円】 以上は、08年9月15日にリーマン・ブラザーズが倒産して2週間後の、貸借対照表(10月1日時点)です。(括弧)内は、昨年の8月6日時点に比べた、各勘定の増減を示しています。 (引用終了) このように、FRBの資産が急速に劣化していることが分かります。この記事(表)によると、昨年に比べて、約100兆円分です。 TAF(15兆円)+プライマリー貸付(5兆円)+証券会社向けの借入金(15兆円)+MMF向けの貸し出し(15兆円)+ベアスターンズとAIG向けの貸出(合計9兆円)+通貨スワップ(34兆円)=103兆円 何度も述べているように、これらの劣化債券や劣化資産のリスクが、FRBに「飛ばされた」という、国家単位の壮大な「飛ばし」となっているのです。 加えて、この記事(表)によると、FRBは、主にアメリカ国債の信用により、資金を捻出(ねんしゅつ)し、約100兆円の信用を想像したのです。 米国短期国債売却(26兆円)+同長期国債(5兆円)+日銀・ECBから借り入れ(7兆円)+当座預金(9兆円)+証券会社から預かり(2兆円)+米国財務省からの国債の預かり(34兆円)+その他の受け入れ(14兆円)+ドル札印刷(3兆円)=100兆円 --- これまで何度も述べていますが、「劣化した金融機関の資産のアメリカ政府による買取」は、アメリカ国民の税金と、その原資となるアメリカ国債を買った投資家に、ツケがまわされるということなのです。 損失補てんは、当然のことながら、今明らかになっている100兆円ではすまないでしょう。その2倍(200兆円)、3倍(300兆円)、ひょっとして5倍(500兆円)も、ありうる話です。ところが、それだけの資金の出し手が、ないのです。日本や中国の国家外貨準備は、すでにアメリカ国債などになっているため、新規の投資資金にはなり得ません。ではどうするか?たとえば、次のような方法があるでしょう。 ・国際協調と称して、日本円を増発 ・FRBに差し入れて、ドルと交換 ・そのドルを市場に流さず、そのままアメリカ国債を購入 ・買ったアメリカ国債は、アメリカ財務省で塩漬けにする ・ある時点で、為替レートと金利上昇による強制調整により、実質の借金を棒引き このケースにおいては、日本の納税者が、「国際協調のため」として、アメリカの損失をかぶることになります。 先ほどの急激な円高では、「債権国である日本に、資金が逃避した」とされています。このため、外貨建ての債券の価値は急落しました。加えて、この債権者は、アメリカ債券を思う通りに売ることができない、「債務を返してください」とお願いするしかない、弱い存在でもあるのです。 何度も書いていますが、日本からカネを搾り取るための、国際協調がありうるのだ、と指摘します。
by kanconsulting
| 2008-11-10 19:54
| 経済状況
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