世界同時国債増刷(1) 戦争並みのコスト 国債消化に懸念 入札未達も プライマリバランス達成不可能

「日本の長期資本市場はクラウディングアウトが起こる状況ではない(が、国債発行には)市場との対話を欠かさないで、慎重な対応が必要」(与謝野財務相、国債の安定消化に関連して)

「厳しい財政の中で15・4兆円もの補正はやりすぎだ。景気浮揚効果は限定的で、負担は将来に回る」(井堀利宏・東京大学大学院教授)

「(国内の経常黒字が減少傾向にあり、日本国債の消化について海外勢の比重が高まっている状況なので、)1990年代後半のような『デフレだから長期金利低下』とはならない可能性がある」(大手銀関係者)

「(解散・総選挙で仮に民主党が勝利し、追加の経済対策が立案された場合)赤字国債がさらに増発される可能性があり、国債(財政赤字)の大膨張が予測される」(市場関係者)

「補正での国債発行額は、市場の消化能力も見ながら慎重に判断しなければならない」(財務省幹部)

「誰も彼も政局と選挙のことしか頭にない」(財務省幹部)

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<世界各国では>

世界の経済危機対策費(WBS調べ)
世界全体 350兆円以上
 内 アメリカ 146兆円
 内 中国 57兆円   

何度も述べていますが、日本のみならず、世界各国で、国債増発競争が始まっています。100年に一度の金融危機と称して、戦時並みの経済対策とその財源が必要なのですが、戦時並みということは、平時の経験則が通じないという意味でもあるのでしょう。

国会答弁でも取り上げられたとして話題の本石町日記によると、『米議会調査局(CRS)が過去の主要な戦争のコストを計算したリポートがあり、その総経費と米政府が昨年打ち出した金融危機対策費を比べたもの。それによると、米主要戦争の総経費はインフレ調整済みで7.2兆ドル(700兆円ぐらい)。これに対して今回の金融危機対策費は8.5兆ドル(850兆円弱)となるそうだ』ということで、比喩ではなく、本当に戦時並みのコストがかかっているのだということです。

さて

世界各国では、国債増発競争のような感じになっており、「いったい誰がそれだけの国債を買うのか」という国債消化に関して、懸念が生じ始めています。

たとえば、ドイツ財務相は29日、(ドイツに限らず)各国政府が景気刺激策をファイナンスするために大量の国債を発行していることについて、
・投資家の購入意欲は限界に近づいている可能性がある
・これほどの規模の国債が発行されると、近い将来、それを買い入れることの出来る投資家がいなくなる
として、国債増発に注意を呼びかけています。

たとえばアメリカでは、FRBによる、連日の国債買い切りオペにより、市場にドルが供給されています。
・ニューヨーク連銀 3月27日 75億4100万ドル 2011年9月─2012年4月償還債 応札額233億6100万ドル
・ニューヨーク連銀 4月1日 60億0800万ドル 2012年5月─13年5月償還期限債券 応札額169億4800万ドル
・ニューヨーク連銀は4月14日 73億ドル 2013年9月─16年2月償還期限債券 応札額264億ドル

合計 今年で9回(4/14時点)買入総額 約510億ドル

FRBによる市場からのアメリカ国債買い入れ自体は、あまり問題ではありませんが、アメリカの大手民間調査機関であるコンファレンス・ボード(CB)は、
・金融緩和やドル安によってインフレ期待が高まった場合、2010年に第2のリセッション(景気後退)に陥る恐れがある
・景気支援を目的としたFRBの利下げや国債買い入れが望ましくない結果をもたらす可能性もある
・「米経済が過剰な速さで回復した場合、2010年に第2のリセッションが到来する恐れがある」
・「(急速な回復は)インフレ再燃の観測につながる可能性があり、そうなれば、景気回復への道と構図をめぐる不透明感が強まることになる」
・ドル安と金融緩和を背景に商品価格が上昇すれば、米経済は1980年と82年のように「2番底」に陥る可能性がある
などと指摘しています。

ヨーロッパに目を転じると、ECBは、今のところ、他の中銀のような資産の直接買い入れは実施していません※が、ECBのトリシェ総裁が「金融政策において非伝統的な措置を排除していない」と述べたことから、国債の買い切りを含む、いわゆる「非伝統的」な政策を考えているとされています。

※法律により、ECBが、各国政府から国債を直接購入することはできないが、金融機関が購入した国債の買い入れは可能。ECBが取り得る非伝統的な策としては
・流動性供給の期間を拡大
・社債買い入れ
・金融機関の社債買い入れ
・金融機関のバランスシート上にある資産の買い取り
・コマーシャルペーパー(CP)購入
・国債購入

イギリスでは、国債の入札に未達が発生しました。
・3月25日に実施された17億5000万ポンドの国債入札で、応札額が1億ポンド以上未達
・未達は2002年以来

イングランド銀行(中銀)のキング総裁が、イギリスの財政赤字の急拡大を指摘、追加財政出動による景気刺激策には慎重になる必要がある、と警告していた通りです。

<日本では>

・追加経済対策の財政支出規模を15兆円
・事業規模は56兆円程度

その背景として、過去の記事でも述べましたが、実質GDPは▲12・1%減(2008年4Q、年率)、需給ギャップ20兆円、という、先進国中最悪の経済状況があります。
加えて、G20金融サミットで、「各国が来年までに5兆ドル(500兆円)以上の景気刺激策を打つ(首脳宣言)」「GDP比2%の景気対策(米国が各国に要請)」をも盛り込んでいるのでしょう。

・財源は大半を建設国債や赤字国債の発行で賄う
・09年度補正予算案では、赤字国債や建設国債の発行額は合わせて10兆円以上
・経済緊急対応予備費1兆円、財政投融資特別会計の積立金を最大3兆円
・一部報道によると、財投債の増発額6兆円台

・当初予算と合わせた09年度の国債発行額は、過去最大の40兆円以上となる見込み
・08年度末の国・地方の長期債務残高は787兆円だが、更に借金が大幅に積み上がる

ということで、本予算成立直後の巨額補正が極めて異例ですが、それ以上に、国債の安定消化が大きな課題になっています。 赤字国債が巨額であり、国債発行額が過去最大(1999年度、約37.5兆円)を超え、長期金利の上昇をもたらす可能性もあると指摘されています。

<プライマリバランスと、国債に対する懸念>

ということで、「11年度までの基礎的財政収支(プライマリーバランス)黒字化目標」は、実現が不可能でああることが、明白になりました。

「ぼろぼろになった旗(目標)だが一応立っている」とは、麻生首相のコメントですが、目標として死んでいるのですから、それは「立っている」とは言いません。「貴様(黒字化目標)はすでに死んでいる」なのでしょう。

市場の国債に対する懸念ですが、必ずしも悲観ばかりではなく、相反する見方があるようです。

楽観派は
・総額で20兆円までなら、サプライズはない
悲観派は
・国内の経常黒字が減少傾向にあり、デフレであっても長期金利が上昇する可能性もある
・国債の消化に関し、海外勢の比重が高まっている状況下では、国債が安定的に消費される保証はない

などということです。

<日銀券について>
ブログでも何度か言及していますが、日銀券ルールというものが存在します。(訂正しました5/1)

(日本)銀行券ルールとは:日銀が保有する長期国債残高(資産)<日本銀行券発行残高(負債)

白川総裁が指摘しているのは、財政ファイナンスのために日銀券ルールを撤廃する(=中央銀行が積極的に国債を買い入れる)と、「日本のように財政バランスが悪い国」においては、将来の金融システムに対する不安から、長期金利が上がるなどという影響により、逆に財政ファイナンスに悪影響を及ぼす、ということです。

B/S(バランスシート)上の対応では、

    負債       資産
長期的 日本銀行券    長期国債
短期的 準備預金など   短期国債

となっています。日銀券ルールは、中央銀行が国債を買い支えた「花見酒」の教訓から、妥当に思えます。

(日本銀行は「物価の安定をはかる」ことが使命のひとつですが、逆に言うと、「物価から見た日本銀行券の価値の安定を図る」とも解釈することが出来ます。うがった見方をすると、デフレになれば、相対的に日銀券の価値は上がるので、日本銀行としてはデフレ歓迎なのかも知れませんね)

最近、中央銀行が積極的に国債を買い入れ、紙幣をジャブジャブに刷って政府に横流し、それを財源に公共事業など対策を打つべし、という意見が散見されます。

そこまで行かなくても、リチャード・クーのように、「バランスシート不況下では、会社・個人は貯蓄を選好してカネを使わないため、インフレが起きない。だから、国家が、会社・個人の貯蓄を吸い上げて、財政出動するべき」という意見が出てきます。

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ということで、ここまでの取りまとめをしますと、

(世界)
・世界同時不況には、世界同時に戦時並みの対策費が必要
・各国はすさまじい量の国債を発行しなければならず、消化懸念が生じ始めている
・中央銀行による買い入れが行われているが、一部に未達も見られる
(日本)
・日本においては、プライマリーバランス黒字化目標は達成不可能
・それどころか、日本銀行券残高以上の長期国債を買い入れるべしとの意見も見られる
・国が国債を発行して、民間の貯蓄を吸い上げ、財政出動することは正しいとの意見も見られる

日本のみならず、世界で増発されるすさまじい量の国債は、世界のどこかにいる投資家が、残らず買ってくれるのでしょうか?それできちんと償還されるのでしょうか?日本のプライマリバランス未達成は、どのような結果をもたらすのでしょうか?PB赤字でも問題ないのなら、そもそもなぜそんな目標が立てられたのでしょうか?裏づけのない紙幣を増刷することは、何が悪いのでしょうか?国が民間の貯蓄を吸い上げて使ってしまうことは、問題があるのでしょうか?世界全体で「利益の先食い」をしたツケを払うのに、また「先送り」をしていて、本当に解決になるのでしょうか?そして、デリバティブでも隠し切れなかった損失を国家に「飛ばし」たところで、本質的に何か意味があるのでしょうか?

もっと簡単に言うと、このような解決策で、維持可能性があるのでしょうか?引き続きのエントリーで述べたいと思います。

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本エントリーは文字数が多いため、関連・引用元となったニュースの題名・URLのみ記載しておきます。

(海外)

各国政府の国債増発、市場の消化能力は限界に近づく=独財務相
英国債入札の未達は「一時的な現象」=ソロス氏
米経済、2010年に第2のリセッション到来の恐れ=CBリポート
情報BOX:ECBが講じる可能性のある非伝統的措置
米FRB、73億ドルの国債買い入れ

(日本)

年末─来年には景気に明るさ、追加国債発行は10兆円超=財務相
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by kanconsulting | 2009-04-20 09:20 | 経済状況
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