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賃金は、ぎりぎり食える限界まで低下する

何度も書いていますが、グローバル経済では、代替できる労働の賃金の水準は、その最低レベルに収束していきます。生産設備が人件費の安い立地を求めることはもはや当たり前ですが、IT・ソフトウェアのような属人的なビジネスでさえも、インドなどへのオフショアリングが当然となって数年が経過しました。その結果、一部のサービス業を除く大半の業界において、賃金下落圧力が発生しました。日本においても「働いても食えない」労働層が発生したことは、まだ記憶に新しいところです。

賃金低下の本質は、別にグローバル化とは直接の関係はなく、個々の経済合理的行動の帰結だとされています。

竹森俊平は、リスクと不確実性の違いを論じるに当たり、(リスクとリターンが計算できる)リスク支配のビジネスでは、自由競争により超過利益が低下する運命にある、として、その例としてタクシー業界を挙げています。
『このままタクシー台数が増え、一台あたり利益がますます減少するなら、平均賃金は、かつてアダム・スミスやリカードなどの古典派経済学者が「自然賃金」と呼んだ水準に下がってもおかしくはない』
「資本主義は嫌いですか/竹森俊平」

自然賃金:それ以下になると、生存が不可能になる賃金水準。つまり、「ぎりぎり食える」限界の賃金

不確実性の議論は日を改めるとしまして、本日は、「賃金は、生活限界水準まで低下する」ことだけを、述べたいと思います。

(このあたり、関連した過去のエントリーである「来るべき暗黒の日(2) 世界株安と円高再び フレディーマック・ファニーメイ・RMBSとナイトの不確実性」もご覧ください)

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(7/2追記)

世界の失業率比較

日本   (5月)   5.2%
アメリカ (5月)   9.4%
カナダ  (5月)   8.4%
イギリス (4月)   7.2%
ドイツ   (6月)   8.1%
フランス (1-3月) 8.7%
イタリア (1-3月) 7.3%

世界全体 (ILO予測) 6.5~7.4%
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by kanconsulting | 2009-06-30 13:49 | 経済状況

日本人2人が13兆円のアメリカ国債をスイスに密輸未遂で逮捕・押収 実は米国債は偽造 笑えない話

その筋ではよく知られたニュースですが、日本人(?)2人が、1340億ドル(約13兆円)相当のアメリカ国債をスイスに密輸(?)しようとして、イタリア当局に拘束された、というものです。

・債券の額が日本保有のアメリカ国債総額の2割であったこと
・イタリアの国家予算に匹敵するほど巨額であったこと
・Troubled Asset Relief Program(TARP)の額とちょうど同じで、何か意味がありそうなこと
・債券の性質上国際決済が可能な銀行に持ち込むしかなく(すぐに見破られて換金できないので)偽造の意味が薄いこと
・その後の続報が遅かったこと
などから、

・そのアメリカ国債は本物か
・もし本物であれば日本がアメリカ国債を闇で売りぬけようとしたのではないか
・その日本人は日本政府(?)のエージェントではないか
・そのために続報がもみ消されたのではないか
などという憶測が流れ飛びました。

ちなみに、無申告の債券持込には40%の罰金が科せられることから、債券が本物であれば、イタリアの財政は非常に潤うであろうと、歓迎する向きもあったとか、なかったとか。

(引用開始)

Japan Probes Report Two Seized With Undeclared Bonds (Update2)

By Shunichi Ozasa and Makiko Kitamura

June 12 (Bloomberg) -- Japan is investigating reports two of its citizens were detained in Italy after allegedly attempting to take $134 billion worth of U.S. bonds over the border into Switzerland.

“Italian authorities are in the midst of the investigation, and haven’t yet confirmed the details, including whether they are Japanese citizens or not,” Takeshi Akamatsu, a spokesman for the Ministry of Foreign Affairs, said by telephone today in Tokyo. “Our consulate in Milan is continuing efforts to confirm the reports.”

An official at the Consulate General of Japan in Milan, who only gave his name as Ikeda, said it still hasn’t been confirmed that the individuals are Japanese. “We are in contact with the Italian Financial Police and the Italian Public Prosecutor’s Office,” Ikeda said by phone today.

The Asahi newspaper reported today Italian police found bond certificates concealed in the bottom of luggage the two individuals were carrying on a train that stopped in Chiasso, near the Swiss border, on June 3.

The undeclared bonds included 249 certificates worth $500 million each, the Asahi said, citing Italian authorities. The case was reported earlier in Italian newspapers Il Giornale and La Repubblica and by the Ansa news agency.

If the securities are found to be genuine, the individuals could be fined 40 percent of the total value for attempting to take them out of the country without declaring them, the Asahi said.

The Italian embassy in Tokyo was unable to confirm the Asahi report.

(引用終了)

しかし、続報によると、このアメリカ国債は大半が偽造であり、偽造債券の単純所持を処罰する法律がないため、日本人は事情聴取後に釈放された(現在は所在不明)、などということです。

アメリカ当局の見解としては、

・写真で見ただけで分かるほどの、粗雑な偽造
・歴史的に存在しない国債も含まれている(1960年代の債券にスペースシャトルが描かれているなど)
・印刷されて出回っている国債の総量をはるかに上回っており、物理的にありえない

などということです。

また、イタリアでは、4月にも、偽造された日本国債が押収されています。今回の事件との関連は不明ですが、組織的な偽造機関の関与を指摘する意見もあります。

そもそも、日本の保有するアメリカ国債は、紙ベースではなく、アメリカ財務省に「日本はこれだけの債券を保有しています」と電子記録されているだけです。ペーパー資産は、すでにペーパーレス、電子資産になっているのです。その裏づけは信用ですから、綺麗に印刷された美しい紙であっても、液晶モニターに写される単なる数字であっても、同じことなのです。

(引用開始)

UPDATE 1-U.S. Treasury says bonds seized in Italy are fakes

(Updates with details on bonds, U.S. Secret Service comment)

By David Lawder

WASHINGTON, June 19 (Reuters) - A purported $134 billion in U.S. government bearer bond certificates seized by police near the Italian-Swiss border are fake, the U.S. Treasury said on Friday.

"Based on the photograph we've seen online, they are clearly fake. And not even good fakes," said Stephen Meyerhardt, a spokesman for the Treasury's Bureau of the Public Debt.

He added that there is only $105 million in Treasury bearer bond securities outstanding, so the $134 billion amount seized far exceeds the universe of outstanding securites.

The Treasury's determination confirmed the suspicions of Italy's Guardia di Finanza, or tax police, who seized the bond documents in early June from two Japanese nationals at the Chiasso rail station in northern Italy, close to the border with Switzerland.

The bonds comprised 249 "Federal Reserve" bonds of $500 million nominal value each and 10 "Bond Kennedy" with a $1 billion nominal value, the tax police said June 4 in a statement.

A senior tax police officer said Italian authorities also were checking whether the two travelers' Japanese documents are genuine.

In the last two years, Italian authorities have seized some $800 million of U.S. bonds in the Como area in northern Italy.

Meyerhardt said U.S. government investigators believe that the seized bond forgeries were made using commercial photo enhancement software to alter the image of a $100 bill to increase the amount into millions or billions and add what appear to be interest coupons.

Another U.S. official said the seized bonds were purported to be issued during the Kennedy administration in the early 1960s, but the certificates showed a picture of a space shuttle on it -- a spacecraft that first flew in 1981. Some of the bonds were purportedly issued in a $500 billion denomination that never existed.

The official, who spoke on background because he was not authorized to discuss specifics of the case, said that scam artists, rather than trying to exchange fake bearer bonds directly for cash, will sometimes try to use them as fraudulent collateral for loans.

The Treasury frequently uncovers scams involving bearer and other securities issued in the 1930s and 1940s. Images of some of these counterfeit bonds appear on a Treasury website aimed at combating fraud, here .

The U.S. Secret Service, which polices counterfeiting of U.S. currency, is assisting Italian authorities in tracing the source of the fake bonds, said Ed Donovan, a spokesman for the agency.

The forgery determination came a day after the Treasury warned U.S. banks against the potential for increased currency counterfeiting activity and large cash transactions by North Korea in an effort to evade U.N. sanctions aimed at cutting off financing for Pyongyang's nuclear weapons and missile programs. (Editing by Dan Grebler)

(引用終了)

しかし、このニュースが、「そんな巨額の紙債券は偽造に決まっているじゃないか、大騒ぎするな」などと、笑って済ませられないというのも、また現実です。というのは

・特に最近、アメリカ国債の過剰発行が問題になっている (アメリカだけではありませんが)
・そのため、アメリカ国債とドルの下落がささやかれている
・中国、ロシアを中心として、「ドル外し」を主張したり、実行する国が増えてきている
・日本は表立ってはアメリカ国債を売ることが禁じられており(橋本龍太郎事件)、こっそりと売ろうと思ったとしてもおかしくはない

なのです。

何度も書きますが、日本とアメリカは一蓮托生、もう行くところまで行くしかない、心中するしかないのです。逆に、日本政府には、スイスの闇市場でアメリカ国債を売りぬけ、それでゴールドのバー(金の延べ棒)でも買って、日本国民の貴重な資産を保全するというような心意気がほしいものです。

(そのためには、原子力潜水艦が必要ですね。昔から、闇取引は、ゴールドの現物を海で運んで物々交換と、相場が決まっています)
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by kanconsulting | 2009-06-22 19:06 | 経済状況

国の債務残高(特別会計含まず) 846兆円→924兆円 持続可能性に懸念 バラマキが終われば刈り取りの季節

少し前の話になりますが、昨年度の国家債務残高と、今年度の試算が明らかになりました。(特別会計含まず)

国債と借入金、政府短期証券を合わせた国の債務残高(ストック)

2008年度末 846兆4970億円(▲2兆7426億円)
・国債全体 680兆4482億円(▲3兆8796億円)
 ・財投債 ▲8兆7042億円
 ・普通国債 +4兆4772億円
 ・その他 +3474億円
・借入金 57兆5661億円(+4072億円)
・政府短期証券 108兆4826億円(+7298億円)

2009年度末 924兆円(見通し)
・年度末の国債残高 725兆円
・約44兆円の新規国債発行が主要因
・追加経済対策だけで10兆円超の国債残高
>初めて900兆円を突破

ということで、昨年度は見かけ上、2~3兆円の残高削減となりましたが、それは一瞬の出来事に過ぎず、今年度末の決算では、早くも追加経済対策・大幅な財政出動の副作用が出てくることになります。

日本だけではなく、世界各国の政府も、多量の国債を発行し、残高を積み上げていることは、これまでも述べてきたとおりです。

さて、

長期金利が上がってきたとはいえ、まだ2%未満の水準です。なぜ多量の国債を発行しているにもかかわらず、低金利なのでしょうか?何度も書いていますが、

・中央銀行が低金利政策を維持している
・国債の購入者の大半が日本国内の金融機関等で、低金利でも引き受けられる
・為替のリスクがあり、より高い金利である外国の影響を受けにくい
・金利が上がれば、保有する国債の評価損となるため、自縄自縛となっている

もちろん、いくつか問題点があります。

・長期間低金利が続くという保証はありません
・資金が有限である以上、「中央銀行(日本銀行)が国債を引き受ける」ことがなければ、いずれ、資金繰りがつかなくなることは目に見えています

「ペーパーマネーを増刷して、それをばら撒けば良いではないか?不景気では、産業部門も家計部門も通貨を退蔵するばかりなので、金利は上がらないし、インフレにもならない。一万円札をタンスにしまう人がいるなら、その分を補填しなければ、経済が回らない」という意見があります。何度も書きますが、実体経済を無視した意見でしょう。実体経済が回復することなく、数字のみが回復したとしても、単なる数字遊びであり、あまり意味がありません。たとえば、景気回復側面で、退蔵した通貨がいっせいに消費などに向かえばインフレになるでしょうし、投資に向かえば資産バブルとなるでしょう。長い目で見たバランス、つまり持続可能性があるとは言えません。

日本国民全員が一人当たり100万円(合計約120兆円)もらっても、それが退蔵されていいるうちは100万円の価値がありますが、トータルで120兆円のマネーがいっせいに市場に出回れば、あたりまえのように減価するでしょう。

このあたり、ビルゲイツが5兆円分の資産を持っていたとしても、その大半が株式ですので、5兆円分の現金を手にすることは出来ないことと同じです。なぜなら、5兆円分の株式(マイクロソフト創業者株)をいっせいに市場で売れば、暴落することは目に見えているからです。株式時価総額は、ある意味、絵に描いた餅と言えなくもありません。

(以前にも書きましたが、株式には、たとえば引受権などで希薄化が発生すると、それが株価に反映される仕組みが出来ています。しかし、通貨は、為替である程度調整されるとはいえ、株式ほどの透明性はないようです)

そもそも、信用とはそのような側面があるものではないでしょうか?

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何度も書いていますが、「バラマキ(給付的な財政支出)は水物であり、その効果は一時的」なのです。そもそもの生産性などを改善するわけではなく、新たな需要を呼び起こすわけでもなく、長く続く効果はありません。定額給付金、エコポイント、自動車減税、などなど、だいたいそういった側面があります。

(財政支出が生産性の向上につながれば、その分、雇用の縮小をもたらし、代替的雇用が発生しなければ、失業をもたらすことも、指摘しておかなければなりません。また、雇用の創出といっても、容易ではないことも明らかでしょう)

10兆円規模の財政支出も、「やらないよりはマシ」なのでしょうが、「それだけの貴重なお金と時間を使う意味がどれほどあるのか」「単なる期待を越えた、投資効果が、どれほどあるのか」については、疑問です。そして、その後のリバランス、つまり増税、が持ち上がってきます。(もちろんこれは日本だけの話題ではなく、アメリカ、ユーロ諸国+イギリス・スイス、など、も同じです。)

そして、単なるバラマキが終われば、刈り取りの季節がやってきます。もちろん、刈り取られるのは国民のお金(税金)です。国民は、うすうすではあっても、そのことに気づいています。ですので、リカードが指摘したように、バラマキは追加需要を生み出さないというのは、ごく当たり前のことなのです。

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チャートで書きますと、かなり雑ですが、以下のようになるでしょう。

世界金融危機 → 各国の景気対策 → 国債多量発行 → 未達 → 金利上昇
    ↓            ↓            ↓       ↓
    ↓            ↓        将来の増税   中央銀行引受 → インフレ
    ↓            ↓
    ↓          バラマキ → 持続的需要向上せず → 実体経済回復せず
    ↓
流動性の引き締まり → 実体経済縮小(本来の姿に) → 生産設備過剰・人員過剰 → 景気さらに悪化
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by kanconsulting | 2009-06-16 15:00 | 経済状況