厚生労働省は、法定労働時間規制を除外する「自由度の高い労働時間制」(日本版ホワイトカラーエグゼンプション)を、労働基準法改正案に盛り込むことを決めたということです。
これは既定路線で、驚くに値しません。こうなることは、何年も前から決まっていたことなのです。大きくは、アメリカの「(対日)年次改革要望書(日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく要望書)」にもあることですし、経団連もその意向を受けてかどうか、2年前からホワイトカラーエグゼンプション導入を求めています。 2007年1月1日に発表された、「経団連ビジョン『希望の国、日本』(通称:御手洗ビジョン)」の概略を示しますが、だいたい次のように述べられています。 ・成長力強化策により、2015年度までの10年間の実質経済成長率2.2%(年平均)、名目経済成長率3.3% ・消費税率を2011年度までに「2%程度」引き上げる ・法人税の実効税率を30%程度へ引き下げる* ・ホワイトカラー・エグゼンプションなどの労働市場改革の推進 *ちなみに、現在の法人税の名目上の実効税率は39.54%ですので、4分の1(25%)程度の減税を要望していることになります。ですが、現在すでに優遇措置や期間限定減税などがあり、統計数字から計算した現在の法人税の実質的な実効税率は25%なのです。 では、なぜそのような路線が定められているのでしょうか?誰がそれを望んでいるのでしょうか? これは、あまりに大きく逆らいがたい「グローバリズム」の現れの一つに過ぎないのです。 ・グローバリズムの本質は、合法的な収奪により、富める者がますます富むこと ・貧困層は貧困のままであり、その恩恵には与れない** ・労働規制緩和、フラット税制、合併買収の規制緩和は、合法的な収奪のために必要な準備 ・グローバルマネーの流入により、人為的バブルが発生するが、失業率は下がらない ・グローバルマネーによる収奪の後は、ペンペン草も生えない(地域の荒廃、共同体の破壊、治安の悪化) **トリクルダウン効果とは、浸透効果説やおこぼれ効果とも言います。簡単に言うと、社会の上層部に富が集まると、その波及効果で社会の下部層も潤うという効果のことです。経済学ではすでにトリクルダウン効果は否定されています。ノーベル賞経済学者であるスティグリッツは、「世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す」において、「トリクルダウン効果が有効だという幻想だけが残っているのは興味深い(P31)」と述べています。 小職は、ずっと同じことを書き続けています。大事なことなので、もう一度書きます。あまりに大きく逆らいがたい「グローバリズム」の現れの一つに過ぎないのです。 大事なことなので、よく考えてください。 関連した書籍もご覧ください。 「世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す/ジョセフ・E・スティグリッツ」 「悪夢のサイクル―ネオリベラリズム循環/内橋克人」 関連するニュースを掲載します。 (引用開始) ホワイトカラー残業代ゼロに?『労働時間規制撤廃を』 厚生労働相の諮問機関、労働政策審議会分科会は二十七日、労働時間規制を撤廃するホワイトカラー・エグゼンプション(適用除外)導入を求める報告書をまとめた。 分科会は、労働者側委員の「長時間労働を助長する」との反対を押し切る形で結論を出した。報告を受け厚労省は、労働基準法の改正案を来年の通常国会に提出する方針。ただ与党内で世論の反発を懸念する声も出ており、今後の調整が難航する可能性もある。 報告書は「ホワイトカラー労働者の増加など就業形態が多様化し、企業では高付加価値で創造的な仕事の比重が高まり、自由度の高い働き方がみられる」と指摘。それにふさわしい制度としてエグゼンプションの導入を認めるべきだとした。 対象者の要件として(1)労働時間で成果を評価できない業務(2)重要な権限と責任を伴う地位(3)年収が相当程度高い(4)使用者から具体的な指示を受けない-を設定。年収は管理職一般の平均的な水準を勘案し、政省令で定めるとした。 導入の際には労使委員会を設置し、対象者の範囲や賃金、対象者の同意を得ることなどを決議し行政に届けるとした。 東京新聞(2006/12/28) --- ホワイトカラーの労働時間規制除外、労基法改正案へ 管理職一歩手前のホワイトカラー(事務職)のサラリーマンについて、厚生労働省は27日、1日8時間、週40時間の法定労働時間規制から除外する「自由度の高い労働時間制」(日本版ホワイトカラーエグゼンプション)を、労働基準法改正案に盛り込むことを決めた。 同日開かれた同省の労働政策審議会労働条件分科会が、導入を求める最終報告をまとめ、柳沢厚労相に提出。報告書には「長時間労働となる恐れがあり、認められない」とする労働側の意見も併記されたが、同省は「議論は尽くされた」として、今後、来年の通常国会提出に向けて、法案作成に着手する。 新制度が導入されると、労働者は自分の判断で、出社・退社時刻など、1日の労働時間を調整できるようになる一方で、残業手当は支給されず、成果で給料が決まる。企業が新制度を導入しようとする場合は、事前に労使で協議し、労働者側の同意を得なければならない。 最終報告には、採用から解雇までの雇用ルールを定める労働契約法の制定なども盛り込まれた。 ヨミウリオンライン(2006/12/27) (引用終了) その背景として、経団連の強い要望があります。再度、「経団連ビジョン『希望の国、日本』(通称:御手洗ビジョン)」を引用します。 (引用開始) 14 労働市場改革 (P116) 制度面では、労働者派遣、請負労働、確定拠出型年金に関する制度改革などを行う。また、有期雇用契約の拡大、裁量労働制、ホワイトカラー・エグゼンプションの推進などにより、多様な働き方を可能にすることで企業が雇用を増やしやすい環境を作る。 (引用終了) 経団連が2005年6月に発表した「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」は、リンク先をご覧ください。 関連した、以前のエントリーもご覧ください。この見通しは変わりません。 (開始) 経団連、法人税、日本版ホワイトカラーエグゼンプション(自律的労働時間制度) これまでも、総額人件費の抑制(成果主義による固定パイの配分)、派遣などの非正規雇用の増加による人件費の圧縮などにより、日本企業の利益水準は回復してきました。行き過ぎた企業は、偽装請負などの違法行為まで手を染めたというのも事実です。 小職は、日本の労働環境について、以下のように予測します。 ・ホワイトカラーの海外アウトソーシングの進行 ・日本版ホワイトカラーエグゼンプションの導入 ・二極化の更なる進行 ・最低賃金の低下 ※ホワイトカラーエグゼンプションとは、自律的労働時間制度とも言います。正確には、White Collar exemption=ホワイトカラー労働時間規制撤廃制度となります。一定の事務・技術労働者を対象に、労働時間に関する法規制から除外する制度です。簡単に言うと、残業という概念をなくし、残業代を支給しなくても良い制度です。アメリカで導入され、日本でも経団連が強く要求しています。経団連は、対象者として、年収400万円以上のホワイトカラーをイメージしているようです。 --- 日本版ホワイトカラーエグゼンプション(自律的労働時間制度)(2) あくまで推計ですが、日本経団連が要求するように、「残業代11兆円」が消えれば、大きなデフレ効果をもたらすことになります。現在の日本で、再びデフレに戻るようなことがあれば、財政破綻の確率は上がってしまうことになります。かたや、経済成長にともなう金利上昇でも財政破綻の確率は上がりますので、今後の国家運営がいかに難しいかがわかろうというものです。 --- 格差社会とその対策 資本の自己増殖と給与の上方硬直化 長期グローバル投資を(1) では、給与の安い労働者は、どうなっていくのでしょうか?このブログでは、「さらに二極化が進行し、中堅層の給与は低下する」としています。その本質は、非常に簡単に言いますと、 「グローバル経済においては、安価な労働力の国・地域の基準に向かって収束するから」 です。 何度も繰り返しますが、 ・働いても働いても、豊かになれない、『ワーキング・プアの時代』が来ると、予測している ・トータルのパイが小さくなる中で、特に低所得者層は、インフレと増税の影響を避けることは出来ない ・「スキルを磨けば格差社会は怖くない」とは、気休めに過ぎない --- 実感なき景気回復 個人所得伸び率はマイナス さらなる人件費カットがありうる その一方で、個人消費は落ち込み続けています。なぜでしょうか? ・企業は業績回復のために、総額人件費を抑制した ・派遣社員などのアウトソーシングの一般化 ・根本的には、海外との人材競争により、一般社員の賃金は上方硬直的となる このような事情から、企業付加価値率中の人件費割合が低下しており、企業部門の好調は、家計部門に波及しません。 小職は、ここからさらなる人件費カットがありうると予測します。 なぜならば、 ・法人税が下がらないならば、その分、他のコストを減らすしかない ・人件費が最も手をつけやすいが、これまでの手法では、総額人件費の抑制はそろそろ限界 大きくバランスシートを考えると、国家、企業、家計、の中でマネーフローがあってバランスしているわけです。企業から家計へのマネーフローを絞ると、家計の二極分化が進み、納税額や社会保障も含めて考えると、国としてのトータルの経済規模は縮小します。 そして、まもなく、「働いても働いても、豊かになれない、『ワーキング・プアの時代』が来る」と、予測しています。冷酷なようですが、それを避けることは出来ません。 (終了)
by kanconsulting
| 2007-01-07 22:49
| 経済状況
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