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増える国債 残高600兆円 それだけが長期公的債務ではない 経済成長率・インフレ率・名目金利の関係

(引用開始)

国債残高、10年度に600兆円突破・財務省試算

財務省は普通国債残高の中期試算をまとめた。名目で3%程度の経済成長を実現しても、2007年度末の見通しで547兆円の国債残高は10年度末に600兆円を突破するとしている。政府・与党内には増税せずに財政再建を目指すべきだとの声もあるのに対し、財務省の試算は増税の必要性を訴える内容。「成長重視派」と「増税派」の綱引きが激しくなってきた。

財務省は25日召集の通常国会に試算を参考資料として提出する。

日本経済新聞1/24

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国債残高圧縮へ新目標・政府、08年度設定めざす

政府は15日、多額な借金に頼る財政をさらに健全にするため、新たな目標をつくる検討に入った。いまは2011年度までに、国債の発行や利払いを引いた国と地方の実質的な収支である基礎的財政収支を黒字にする目標を立てているが、毎年の赤字をなくすだけではなく、国債残高削減という過去の借金減らしに大きくかじをきる。国内総生産(GDP)に対する政府の債務残高の比率を圧縮することや、利払いなどを含めた財政収支の黒字転換時期を示すことを検討する。

政府の経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)が今月下旬に閣議決定する経済財政運営の中期指針の経済見通し案によると、基礎的財政収支の黒字化目標時期は、安倍政権の成長戦略で税収が増えても11年度を前倒ししない。その代わりに、新たな増税なしで09年度からの基礎年金の国庫負担増を賄えるとした。11年度の経済成長率は名目で3.9%、実質で2.5%程度に上がると試算した。18日の諮問会議で大田弘子経済財政担当相が提示する。

日本経済新聞1/16

(引用終了)

財務省試算による国債残高予想が発表されました。 簡単にまとめると、以下のような数字になります。

2007年度 国債残高 547兆円
2010年度 国債残高 605兆円
2016年度 国債残高 715兆円

名目で3%程度の経済成長を実現しても、国債残高は増え続けるとされています。ここで、経済成長率は名目で3.9%、実質で2.5%程度に上がると試算していますので、想定されているインフレ率は、粗い計算ですが、
3.9-2.5=1.4%
ということになります。

また、名目金利と名目成長率には相関がありますが、「近年の各国のデータでは、名目金利>名目成長率であり、その格差はほぼ1~2%の範囲」*とされています。ですので、名目金利は、これも粗い計算ですが、
3.9+1~2=5~6%
ということになります。

*(参考)過去の記事を抜粋して掲載します。参考までにご覧ください。

「「10年後、3%の黒字目標」とは? ~国家財政の持続可能性」

これまで何回か指摘してきましたが、国家財政の持続可能性を考えたときに、「プライマリバランス黒字」は必要条件であり、十分条件ではありません。つまり、プライマリバランスが黒字化するだけでは、国家債務残高が減少に転じるとは言い切れないのです。

さて、「フィナンシャル i」にて、経済産業研究所の鶴光太郎は以下のように指摘しています。

・財政の持続可能性を担保するような基礎収支黒字比率目標は、(名目金利-名目成長率)×債務残高比率
・例えば、金利が成長率よりも2%上回るとすると、日本の債務残高はGDPの1.5倍程度なので、債務残高上昇をストップさせるためのプライマリバランス黒字比率は2×1.5=3%程度
・金利、成長率を中長期的に予測することは難しいが、日本の金利・成長率格差の予測は、1~2%の範囲が妥当。
・「金利=成長率」は楽観的なシナリオであり、金利が相対的に高まれば崩壊してしまうので、適当ではない

その根拠を簡単にまとめると、

・国家財政の持続可能性の上では、金利が国内総生産(GDP)成長率を上回り続けると、どんどん債務残高比率は上昇してしまうため、避けなければならない
・債務の伸び率を、国の体力であるGDPの成長率以下に抑える必要がある
・加えて、債務残高比率上昇を考慮すると、利払い部分を相殺するだけのプライマリバランス黒字(利払いを除く)が必要
・近年の各国のデータでは、金利>成長率であり、その格差はほぼ1~2%の範囲
・成長率>金利のケースが多かったのは、1970年代以前の話で、金融自由化の進んだ近年の先進国では無い

(終了)

また、参考ついでに、これまでの日本の「経済成長率と物価上昇率」については、「量的緩和の解除(3) 経済成長率と物価上昇率を振り返る」も参考にご覧ください。

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ですが、インフレ率が2%未満にもかかわらず、名目金利が5~6%(実質金利は3~4%**)になれば、理論上の国債利払い費が高騰してしまいます。
715兆円*5~6%=35~43兆円
これでは、「物理的に、一般税収のほとんどが国債の利払いに消えてしまう異常事態」になってしまいます。国債のデフォルトに直結しかねない事態ですので、政府は、金利がそうならないように事前の押さえ込みを必死になって行うと思います。

**(参考)過去の記事を抜粋して掲載します。この過去の記事で記載した「インフレ率が2%なら実質金利は6%」に比べて、今回の想定数字である「インフレ率が2%未満、実質金利は3~4%」は、想定する金利が低くなっているようにも思います。

「インフレ率と実質金利」

では、「貨幣価値の安定の指標としての平均インフレ率」と「資金調達コストを示す実質金利」の関係は、どうなっているのでしょうか。(中略)

図(省略しています)のように、インフレと実質金利には相関があることが分かります。インフレ率が2%なら実質金利は6%、インフレ率が4%なら実質金利は10%といったところでしょうか。

(終了)

それ以前の問題として、国債残高だけが「長期公的債務」ではありません。2005年末において、すでに、国家・地方の長期債務は1000兆円にほぼ到達しているのですが、その数字は「普通国債520兆円」と「普通国債以外480兆円」となっており、普通国債の約2倍となっているのです。

(参考)

「臨界点(クリティカルポイント)近し 国家・地方の長期債務1000兆円に」

財務省は22日、国債、借入金などを合計した「国の借金」が今年9月末で799兆201億円になったと発表した。
普通国債は6月末より約8兆円増の518兆円。・・・
財政投融資の財源となる財投債は、・・・127兆円になった。・・・
政府の一時的な資金繰りにあてる政府短期証券は・・・91兆円になった。・・・
借入金は、・・・58兆円となった。・・・
地方の長期債務は約204兆円あるため、国と地方を合わせた長期の借金は、重複分を除いても1000兆円近くに膨らんでいる。

(終了)

結論から言いますと、繰り返しになりますが、

・経済成長によって、名目金利は5~6%に上昇する可能性がある
・名目金利が5~6%になると、物理的に国債の利払いが不可能になる事態がありうる
・普通国債以外にも、同程度の額の長期公的債務が存在するため、名目金利が3~4%程度でも、危機的な事態が発生する可能性がある
・増税と、低金利継続によってのみ、この事態を回避できる
・それが失敗に終わった場合には、インフレで債務の価値を調整することになる

と指摘します。
by kanconsulting | 2007-02-05 01:50 | 経済状況
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