皆様もニュースでご存知のように、京樽の健康保険組合が解散、加入者は国が運営する政府管掌健康保険組合に移行したということです。
そもそも、健康保険とは、日本の公的医療保険制度であり、社会保障のうち社会保険(医療保険)に分類されます。健康保険に加入する被保険者が、医療の必要な状態になったとき、医療費を保険者が一部負担する制度のことです。日本では、生活保護の受給者などの一部を除く日本国内に住所を有する全国民(および日本に1年以上在留資格のある外国人)が、何らかの形で健康保険に加入するように定められています(国民皆保険)。(wikipedia) 健康保険の種類としては (1)被用者保険 ・政府管掌健康保険(政管健保) ・組合管掌健康保険(組合健保) ・船員保険 ・共済組合 (2)国民健康保険 ・国民健康保険(国保) ・国民健康保険組合 さて、健康保険組合解散相次いでいる原因としては、医療制度改革に伴う負担増とされています。もう少し詳しく見てみると、今年度からの医療制度の見直しにより、高齢者医療拠出金の負担が増えたことが原因ということです。先月は、西濃運輸の健康保険組合も解散しており、今後同様の動きが広がると指摘されています。 (図表は、「健康保険財政の長期推計~少子高齢社会における新制度の持続可能性~」 JRI news release ビジネス環境レポート No.2006-12 から引用。以下同じ) 実は、今年4月以降の半年で13組合が解散しており、すでに昨年度(12組合)を上回っています。厚生労働省によれば、来年4月までに解散したいとの相談が4組合からあり、今後も解散の増加が見込まれます。 西濃運輸の健保の高齢者医療制度への拠出金は、36億円(前年度。保険料は月収の8.1%に相当)から58億円(今年度)と、約22億円増加。京樽の健保も医療費負担が2倍以上になりました。負担増分を保険料(労使折半)で賄うとなると10%以上になり、政管健保の保険料8.2%を超過するため、独自の健保を維持するメリットはなくなり、解散したい、となるわけです。(健保の平均保険料は7・3%) 本当に、そんな簡単な問題でしょうか?もう少し考えてみたいと思います。 後期高齢者医療費 支出:11兆円 収入:1兆円(窓口負担)、1兆円(老人保険料)、4兆円(健康保険拠出金)、5兆円(税金) このように、約4割が、現役世代の健康保険からの拠出金で賄われています。実は、健康保険の種別によっても負担の差異がありまして、 ・国民健康保険 保険負担50%、国庫補助50% ・政府管掌健康保険 保険負担87%、国庫補助13%* ・健康保険組合 保険負担100%、国庫補助0% *政管健保の国庫補助率は、16.4%から20%の間と、健康保険法に規定されています。しかし、財政の黒字を理由に1992年、暫定的に補助率が13%となり、これが現在まで続いています。 となっています。 前期高齢者医療費 支出:5.1兆円 収入:そのうち0.2兆円(健康保険拠出金) 今年度は、現役世代の健康保険からの拠出金が、0.2兆円から1.1兆円へと増額されることとなっています。なぜでしょうか?昨年度までは、退職者医療制度として、支出が健保の旧加入者の医療費に限られていました。しかし、今年度からは、前期高齢者の多くが加入する国民健康保険への支出へと、範囲が拡大されたためです。 厚労省の調べでは、約1500の健保全体で、 ・後期高齢者医療制度:700億円の負担増 ・前期高齢者医療制度:3200億円の負担増 ・合計:3900億円の負担増 (図は、赤旗から引用) この負担増は、保険料アップとして、労働者も負担することになります。たとえば、人材派遣健康保険組合の公表した数字によると、月収24万円の派遣労働者だと、7320円/月(6.1%)から9120円/月(7.6%)になります。 今後は、どのようになっていくのでしょうか? まず、国民医療費の将来推計を見てみましょう。 『後期高齢者人口は、05 年度の1,157 万人から30 年度の2,097 万人まで一貫して増え続け、いったん僅かに減少するものの再び増加に転じ、50 年度には2,162 万人に達する見通しである。加えて、1 人当たりの医療費の伸び率を、本稿は政府推計の前提同様、70 歳未満および70 歳以上について、それぞれ2.1%、3.2%と仮定している。そのため、70 歳以上の1 人当たり医療費と70 歳未満の1 人当たり医療費の乖離幅が時間の経過とともに大きくなっていく。』 (図、文とも、JRI news release ビジネス環境レポート) 次に、健康保険財政の将来推計を見てみましょう。 『組合健保(注13)の08 年度の支出5.8 兆円に占める医療給付費と支援金等は、それぞれ55%の3.2 兆円、45%の2.6 兆円となっている。15 年度になると、医療給付費と支援金等は、それぞれ3.6 兆円、3.5 兆円とほぼ等しくなる。以降、政府推計がない期間についてみていくと、支援金等が医療給付費を上回り、その幅も大きくなる。例えば、25 年度には、医療給付費4.2 兆円に対し支援金等は0.5 兆円上回る4.7 兆円、50 年度には、医療給付費5.5 兆円に対し支援金等は4.1 兆円上回る9.6 兆円となる。支援金等のうち、増加が著しいのは、後期高齢者支援金であり、2008 年度には支援金等2.6 兆円のうち約半分の1.2 兆円であったものが、50 年度には同9.6 兆円のうち6.5 兆円になる。このように、組合健保が、企業と被用者から健康保険料を集めるのは、加入者へ医療給付を行うためという組合健保本来の目的よりも、支援金等を支払うためという、いわば主客転倒した姿になることを推計結果は示している。 政管健保も、タイミングこそ組合健保より遅いものの、支援金等が医療給付費を上回る。』 (JRI news release ビジネス環境レポート) 同時に、高齢者医療制度が、すさまじい規模となることとなっています。 このレポート健康保険財政の長期推計~少子高齢社会における新制度の持続可能性~」では、必要な支出は保険料によって必ず賄われるという仮定に基づいていますが、実際には、 (組合健保と政管健保) ・加入者数の抑制、企業による正規雇用の抑制 (以前から進行中) ・組合健保そのものの解散 (今ここ) ・政管健保の不正な適用逃れ (今後) (国保) ・納付率のさらなる悪化 (以前から進行中) によって、制度の持続可能性があるとは言えない、と指摘しています。 簡単に言うと、高齢者医療制度問題は氷山の一角であり、日本の健康保険制度そのものが成り立たなくなる日が、すぐそこまで来ている、ということです。 (引用開始) 京樽健保組合が解散 高齢者医療の負担重く政管健保に移管 吉野家ホールディングス傘下で持ち帰りすしチェーンを展開する京樽の健康保険組合が、高齢者医療制度への拠出負担増などにより9月1日付で解散したことが9日わかった。社員とその家族など約3500人の加入者は全員、国が運営する政府管掌健康保険(政管健保)に移った。8月の西濃運輸健保組合の解散に続く動きで、健保組合に依存する医療制度の持続性にも影響を与えそうだ。 京樽によると、今年4月の医療保険制度改革に伴い、高齢者医療制度への拠出など前年度比2億円強の負担増が見込まれ、現行8.2%の保険料率を10%以上に引き上げる必要性が生じた。このため、健保組合を解散し、保険料率の面でも有利な政管健保に移ることを決めたという。 政管健保の財源の一部は国庫負担によって支えられているため、今後も健保組合の解散が相次いで政管健保に移行すれば、国民負担の増大につながる恐れもある。 日本経済新聞 --- 持ち帰りすし「京樽」の健保も解散 政管健保に移行 2008年9月9日12時31分 持ち帰りすしのチェーンを展開する京樽の健康保険組合が1日付で解散し、国が運営する政府管掌健康保険に移行していたことが9日分かった。高齢者の医療制度の見直しで負担が増し、運営が困難になったという。 京樽は牛丼チェーン吉野家ホールディングスの子会社で、京樽健保(89年設立)の加入者は扶養家族も含めて3500人。同社によると、08年度は前年度比2億円の負担増が見込まれ、「自助努力では、負担できないため」と、政管健保への移行理由を説明している。解散のための厚生労働相認可は8月8日に出ていた。 先月には運輸大手・西濃運輸グループの健保組合が解散している。高齢者の医療費をまかなう拠出金の負担増で、健保組合の解散が続く可能性がある。 朝日新聞 --- 中小企業の新健保、10月発足 財政基盤の強化急務 中小企業の社員らが加入する政府管掌健康保険(政管健保)を引き継ぐ全国健康保険協会(協会けんぽ)が、10月1日に発足する。政管健保は医療費の増大などから2007年度に赤字に転落。保険料率を引き上げなければ、財政の安定のために積み立ててきた「事業運営安定資金」が09年度に枯渇する。財政基盤に不安を抱えた新健保は発足当初から厳しい運営を迫られる。 高齢化で医療費が膨らんでいることに高齢者医療制度への拠出などが加わり、健保財政の悪化は構造的な問題になっている。安定資金の積立残高は07年度末に3690億円あったが、08年度末には1800億円に減少する見通し。保険料率を引き上げなかった場合、09年度の単年度収支は2700億円の赤字が見込まれ、安定資金は差し引き約900億円のマイナスに陥る。(07:00) 日本経済新聞 (引用終了)
by kanconsulting
| 2008-09-14 17:38
| 経済状況
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