日々刻々と変化する、世界経済の情勢に、皆様も固唾を飲んで注目されていることと拝察します。
さて、ご存知のように、アメリカ政府とFRBが、AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ。130カ国で事業展開する世界最大級の保険会社、本体の資産規模は1兆ドル)の救済に乗り出しました。FRBと財務省は、民間金融機関への協力要請を拒否されたことから、監督権限のない保険会社に対する、異例の支援を決断したようです。 ・アメリカ政府とFRBは、850億ドルを上限につなぎ融資を提供 ・融資期間は24カ月、金利はLIBOR(3カ月物)を基準 ・AIGの資産と子会社株式を担保に ・アメリカ政府が79.9%の株式を取得 ・事実上政府管理下で再建を図る ・AIGは、資産売却を通じ融資を返済 AIGが破綻すれば、全世界を巻き込んだ信用崩壊、すなわち「世界恐慌」になるのは、目に見えていました。ですが、「全面救済」と言うわけではなく、「安楽死」という表現になっています。「2年の間に、資産を整理して、会社をたたみなさい」というニュアンスに近いようです。 さて、アメリカ政府は、リーマン・ブラザーズには、モラルハザードを理由に、政府資金の投入を拒否したこともご存知と思います。なぜ、リーマンブラザーズは見捨てられ、AIGは(一応)救済されたのでしょうか? 一般的な見方としては、 AIGは、 ・大きすぎて、つぶせない ・もし倒産すれば、世界的な大恐慌になる ・金融機関への保険を引き受けていることから、世界の金融システムからは必要不可欠 リーマンは、 ・モラルハザードを重視 ・猶予期間があったにもかかわらず、対応し切れなかった経営責任 ・投資銀行的な証券会社であり、ベアスターンズのような独占的金融技術もないため、倒産しても、影響は限定的 本当にそれだけでしょうか?私は、「ドル防衛とヘッジファンドに対する、政治的な判断」があったのではないか、と指摘します。 まず、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の話です。このブログでも、1年以上前から、CDS問題を指摘してきましたが、AIGのとりあえずの最大の問題も、CDSです。 ※クレジット・デフォルト・スワップとは : 文字通りでは、手持ちのお金と、将来の不履行可能性を、交換することです。保険料を支払い、何かトラブルがあったときに支払いを受けるという、保険のイメージが近いですが、オプションのようなデリバティブです。具体的には、ある債券が不履行になった場合にでも、CDSによる保証があれば、債券投資家は元利の支払いを受けられます。「債権者(投資家)」「債務者(債券発行者、金融機関や一般の会社など)」「保証者(CDS引き受け)」「保険者(CDSの代金支払い)」の4者の関係となります。非常に簡単に言うと、保証人は、CDSを引き受けることで、保険者から、現在のキャッシュを手にします。何もなければ良いのですが、債務不履行においては、決められた金額を支払う義務が発生します。CDSのみを切り離しで取引することも可能です。CDSは、オプションですので値段の決定が難しく、高等の金融工学が必要とされます。ベアスターンズが救済された理由として、CDSの値付けがベアにしかできなかったから、と言われています。 AIGの子会社のひとつに、AIGFPがあります。保険を証券化商品として取引させるために、非公開のCDS市場を取り仕切っています。もともと、CDSには公開された市場がなく、相対取引が前提となっています。AIGFPが仲介することで、流動性を付与できていたというところでしょう。非常に簡単に言うと、「倒産リスクを、見栄えが良いように切り分けて、販売仲介していた」という感じです。 AIGそのものは、保険会社としては優良な企業であったように思います。しかし、CDSに深く立ち入りすぎたために、どの程度のリスクがあるのか誰にもわからなくなり、民間金融機関による救済ができなかった、というところでしょう。これまでも指摘しているのと同様の、「大きなリスクが残っているという疑心暗鬼」だと思います。 かたや、リーマンには、そのような仲介役的な貢献はなく、レバレッジをかけた金融商品の運用により、市場の乱高下を促した、という判断なのかもしれません。ライブドアのMSCBを引き受けたというような、どちらかというとダークな一面も見え隠れします。 「レバレッジを効かせて、資産価値変動の波に乗っておいしい汁を吸い、巨額の報酬を得て、その割りにオフショアスキームを活用して税金は納めず、損失が出て分が悪くなったら、国民の税金で救済してほしい」という話には、アメリカ政府は乗らなかった、というところでしょう。今後は、すべてのヘッジファンドがそうだという意味ではありませんが、ヘッジの意味を失ったヘッジファンドには、逆風が待っているのだと思います。ジョージソロスがイギリスポンドを売り崩した話は有名ですが、アメリカはそれを許さない、ということなのだと思います。 ちなみに、リーマンは計7000億ドル超のデリバティブ(金融派生商品)の取引残高を持つと見られています。日本の国家財政規模に匹敵する程度の巨額ですが、のちほど述べる、世界全体のデリバティブ残高からすると、微々たる額と判断された、ということでしょう。 さて、世界全体のデリバティブの残高は、正確な数字は不明ですが、50兆ドル(2005年当時)と言われていました(過去の記事を参照)。現在では、さらに大きな数字となっていることでしょう。 日本銀行が把握しているところでは、商品デリバティブに金利先物などを含めたデリバティブ取引の全体の残高(想定元本ベース)は、約36.4兆ドル ・OTC(取引所外)取引:27兆5000億ドル(前期比10.1%増) ・取引所取引:8兆9000ドル(同37.4%増) (2008年8月29日発表、デリバティブ取引における定例市場報告) となっています。一国の経済を吹き飛ばすのには十分大きな額なのですが、日本銀行がまだまだ把握し切れていない分があるはずで、この程度の額に収まっているはずがありません。なぜならば、デリバティブの一部であるCDSの推定残高が、軽く36兆ドルを上回るからです。 CDSの発行残高は、4500兆円とも、6500兆円とも、言われています。日本の1990年代の、バブル崩壊、金融危機、とは比べ物にならない、大きな危機が来ているのだと思います。 双子の赤字を抱えるアメリカで、このような信用収縮が起こり、信用崩壊に発展したことは、決して偶然ではありません。アメリカ国債が売れなくなる日は、そこまで来ています。そして、物価(インフレ)、金利、為替、のいずれか、あるいは全部、によって、「ドルの減価」がありうるのだと思います。 (引用開始) 米国発金融危機 最悪の事態回避 AIG救済 不安解消には時間 FujiSankei Business i. 2008/9/18 米連邦準備制度理事会(FRB)がアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)に対し850億ドル(約9兆円)の融資を承認したのは、取引先や顧客を世界中に抱える巨大保険会社の破綻(はたん)は金融システムを揺るがす事態に発展すると判断したためだ。 FRBによる融資期間は24カ月、金利はロンドン銀行間出し手金利(LIBOR)の3カ月物をベースとする。AIGの資産と子会社株式を担保にし、AIGは資産売却を通じ融資を返済する。政府は融資する代わりに同社の発行済み株式の79・9%を所有する権利を取得。事実上、金融当局管理下で再建を図ることになる。 AIGは、サブプライム(高金利型)住宅ローン関連損失で資本不足に陥り、16日は株価が一時1・25ドルまで急落。資金繰りも窮迫していた。FRBと財務省は民間金融機関にも協力を要請したが拒否され、監督権限のない保険会社に対する異例の支援を決断した。 AIG救済が決まったことで、リーマン・ブラザーズの破綻以降、信用不安が深刻化していた内外の金融市場には安心感が広がっている。大手金融機関の破綻が相次ぐ「負の連鎖」やドル暴落という最悪の事態はひとまず回避されたとの見方が強い。クレディ・スイス証券の白川浩道チーフエコノミストは「世界各国で消費者に身近な保険商品を取り扱うAIGが破綻すれば、その影響はリーマンとは比べものにならなかった。米当局の決断は市場には相当のプラスになる」と評価する。 米証券大手メリルリンチが米銀大手バンク・オブ・カリフォルニアに救済されたのに続き、英銀大手バークレイズがリーマンの北米投資銀行部門などの買収を発表し、重苦しいムードが漂っていた市場にも「ようやくあく抜け感が出てきた」(メガバンク幹部)という。FRBの決定でドルにも買い安心感が広がり、大和総研の亀岡裕次シニアエコノミストは「協調介入観測も遠のく」とみている。 一方で、FRBによる救済対象の線引きがあいまいな上、全米の地銀や貯蓄金融機関の経営問題もくすぶり、先行きはなお流動的だ。亀岡氏は「当局による破綻処理の線引きが明確でなく、“次のリーマン”探しを続ける市場の疑心暗鬼は解消されていない」とも指摘する。 米金融界や金融市場では今、ワシントン・ミューチュアルなど複数の大手貯蓄機関や地銀で経営不安がささやかれている。白川氏は「破綻連鎖が次のラウンドに向かう懸念がある。公的資金注入も含めた米当局の機敏な対応が必要」と話した。(ワシントン 渡辺浩生、柿内公輔) --- 金融崩壊:リーマン・ショック/中(その1) AIG処理、「2年で」最後通告 米証券4位、リーマン・ブラザーズの経営破綻(はたん)で世界の金融市場で大混乱が続いた16日夜、米当局は米保険大手AIGに緊急融資し、政府管理下に置くことを決めた。 この措置は、AIG救済というよりも、安楽死を迎えるよう猶予期間を設けたという色合いが強い。米連邦準備制度理事会(FRB)はAIGに最大850億ドル(約9兆円)を融資するが、期間は24カ月。「2年間は事業継続に必要な運転資金を融資する。その間に資産売却や縮小を完了し、処理を終えよ」という最後通告でもある。 AIGは生命保険、損害保険の契約者など多くの顧客を抱える。投資銀行のリーマンはウォールストリートなど金融のプロを取引相手とするのに対し、130以上の国・地域に進出するAIGは「主要都市のメーンストリート」に事務所を構え、一般人も顧客に持つ。「突然死」させれば、影響は計り知れない。しかし徐々に整理・縮小していけば影響を最小限に抑える形で処理ができる。 米政府が突然の破綻を恐れた理由はほかにもある。AIGは企業向け融資や証券化商品が焦げ付いた際損失を肩代わりする「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」と呼ばれるデリバティブ(金融派生商品)市場を主導する立場にあった。CDSは世界の大手金融機関や投資家の間で取引が急増、総額は60兆~80兆ドル(約6000兆~8000兆円)ともいわれる。市場での取引が滞れば、世界の金融市場は大混乱を飛び越し、大恐慌に陥る恐れがあった。 毎日新聞 2008年9月18日 東京朝刊 --- AIG救済 目前の危機は避けたが 2008年9月18日 米当局が信用不安に陥っていた保険最大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の救済を決めた。とりあえず危機は回避できたが、住宅価格の下落が続く。警戒を緩められない。 米当局は証券大手リーマン・ブラザーズに対する厳しい姿勢から一転し、AIG救済に動いた。 連邦準備制度理事会(FRB)が最大八百五十億ドル(約九兆円)の融資枠を設定する一方、政府が約80%の株式取得権をもって、普通株や優先株への配当支払いを拒否する権利も保有する、という。 FRBと政府が役割分担した合わせ技による事実上の「国有化」といえる。「税金による民間企業の救済」と納税者の反発を招かぬよう、政府の介入をぎりぎりの線にとどめる救済策になった。 AIGの顧客には個人客が多く、破たんすれば世界中の消費者に打撃が大きい。日本でもアリコジャパンなど関連会社が生命保険やがん保険を販売し、生保三社の契約件数は国内大手に迫る規模だ。「私の保険はどうなるのか」という家計の心配も、今回の措置でひとまず和らぐはずだ。 加えて、保険会社は他の金融機関相互の取引も保証しており、証券単体がつぶれた場合よりも、悪影響は連鎖的に拡大しかねなかった。経済全体への打撃を避ける点で妥当な判断といえる。 ただ、ポールソン財務長官は証券最大手ゴールドマン・サックスの前会長兼最高経営責任者(CEO)だ。金融市場では「証券も保険も同じ民間。昔のライバルに厳しかった」という声もある。 AIGの救済を受けて、株式市場は反発し、為替市場もドル高に戻った。AIGはここでひと息つくことなく、経営責任を明確にして、不良資産の売却など経営再建に全力を挙げる必要がある。 これで金融危機が去ったともいえない。危機の根源にある米住宅市場は依然、値下がりを続けている。住宅価格が下げ止まらない限り、金融機関は新たな不良債権を抱えてしまう。 グリーンスパン前FRB議長は現状を「百年に一度の危機」と表現した。壮大な住宅バブルのつけを処理して、金融界が安定するまで、なお時間がかかるだろう。 米当局は日本の教訓に学びつつ「迅速処理が傷を小さくする」という米国流の荒療治も取り入れ、ケースごとの果断な対応を目指しているようだ。日本の当局も欧米と連携プレーが求められる。 中日新聞 --- 焦点:日銀総裁は米金融問題の長期化に言及 2008年 09月 18日 06:28 JST 〔東京 17日 ロイター〕 白川方明日銀総裁は17日の記者会見で、米国金融機関をめぐる情勢について、損失処理にめどが立たず長期化するとの見通しを示した。 米連邦準備理事会(FRB)がAIG(AIG.N: 株価, 企業情報, レポート)救済のため異例の措置に踏み込んだことに対し、総裁はぎりぎりの決断だったと理解を示したが、17日の市場では翌日物ドル金利が一時8%まで跳ね上がったほか、金融市場で信用不安は沈静化していない。 日銀でもこうした厳しい状況を認識し、システミックリスクへの警戒感を持って市場を注視している。白川総裁は国際金融市場の不安定さが日本の景気回復時期に影響する可能性にも言及した。 <米金融問題に厳しい見方、日本経済にも影響> 白川総裁は米金融機関の損失処理について、めどが立たない状況だとして「依然として問題解決に向けて険しい道のりが続いていると判断する」との厳しい見方を示した。何よりも米住宅価格の下落という根本問題があると指摘。金融市場の不安が長期化する可能性が高まり、日本経済についても「回復時期も含めて下振れリスクに注意が必要」だと述べた。 欧米での信用不安は企業金融にも影響を与え、経済活動を減速させるという金融不安と実体経済のスパイラルが予想されるためだ。 金融政策決定会合後に公表された日銀声明文でも、リスク要因として「国際金融資本市場は不安定さを増している」との認識が示された上で、世界経済についても、前月までの米国経済の下振れリスクを念頭に置いていた部分が、世界経済全体の減速を懸念する表現に置き換わった。 資源価格が下落に転じ、これまで景気悪化の要因だった交易条件悪化が改善するプラス要因があるものの、資源価格下落の背景にはマネーフローの変化だけではなく、世界経済の相当な減速があると見る日銀幹部も多く、日本の輸出減速の影響が大きくなれば、国内景気の回復は相当先にならざるを得ないとの声もある。 <AIG救済策、信用不安の歯止めにならず> 白川総裁が米金融機関問題に対して厳しい見方を示した背景の1つには、AIGの公的管理が発表された後も、市場の信用不安に収まる気配が見えないことがあるようだ。FRBは最大850億ドルの有担保融資を実施し、米政府がAIG株の79.9%を受け取る救済案を発表、金融市場でも安心感からいったんは「質への逃避」の巻き戻しが起こった。 しかし、17日の欧州インターバンク(銀行間取引)市場では、翌日物ドル金利が一時、8%まで急上昇し、ドルLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)も高止まっている。 今回のAIGに対するFRBの対応は、通常の流動性供給を超え踏み込んだ内容となった。AIGの資産を担保とした資金供給という形をとり、貸し出しレートもLIBORプラス850bpと、スプレッドも大幅な上乗せ幅となり、ペナルティとして厳しい条件付きで融資を実行する。だが、FRBの融資で破たんを回避させるという、通常の中央銀行としての対応から大幅にかい離した手を打つことになった。 白川総裁もこうした対応について「システミック・リスクに直面した場合の公的当局の対応のあり方は、中銀については流動性の供給であり、資本不足の問題は国民の税金をどう使うのかという問題なので、政府・議会が決定すべき事項であるというのが概念的な整理」と指摘。FRBの対応が異例だったとの見方を示している。 FRBの踏み込んだ救済策にもかかわらず、市場ではむしろ救済される金融機関と破たんに追い込まれる金融機関の明確な区別の基準がないとして、疑心暗鬼から信用不安が増幅した状況になっている。日銀でもそうしたマーケットの情勢を認識している。 国際通貨基金(IMF)のストロスカーン専務理事は17日、訪問先のジッダで、金融危機の最悪期はこれから訪れ、問題に直面する主要金融機関が今後数カ月でさらに増える可能性があると述べた。 日銀も当面、主要国中央銀行と連絡を緊密にしながら、金融市場の動向を注意深くみていく方針だ。破たんしたリーマン・ブラザーズ(LEH.N: 株価, 企業情報, レポート)やAIGの取引ポジションの行方がどう処理されていくのか、世界の金融機関がカウンターパティーリスクに敏感になり始め、価格形成やリスクプレミアムにどのような影響が出るか、日銀では注意をはらっていく方針だ。 また、資金の抱え込みが強まる中で、外国金融機関はこれまで円キャリー取引やサムライ債の発行で調達していたが、日本の金融機関が資金の出し手としてどう対応していくのか、様子を見ていくことも必要だとしている。 白川総裁によると、すでにリーマン・ブラザーズ破たんの前週末に、総裁はじめ資金調節担当レベルで他の中央銀行と情報を交換しながら、対応していたという。今後、外国中央銀行への資金供給に際して、クロスボーダー担保を受け入れるかどうかも、中央銀行間で検討することをこの日の会見で明らかにした。 (ロイター日本語ニュース 編集 田巻 一彦) (引用終了)
by kanconsulting
| 2008-09-18 17:19
| 経済状況
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